高校生に伝えたいほんとうの情報科学

森羅万象をシミュレーション

数学は偉大です。小学校の理科では、自然界にあるものの基本的な性質を学びますが、中学、高校の物理の教科書では、数学を用いた「計算」が重要な役割を果たすようになります。大学に進むとさらにこの傾向は強くなり、物理でも化学でも数学なしには語れなくなります。数学は、物理現象や化学現象を説明しようと使われるなかで高度になってきた側面があります。

しかし、日常的な物理現象でも、ちょっと難しい方程式になると、どんなに頑張っても紙と鉛筆を使った計算では解けません。大量の複雑な計算を正確に行って、はじめて答が出せるからです。

大量の計算を正確に行うという点では、計算機(コンピューター)は人間とは比較になりません。たとえば、地球上のすべての人がそろばんの達人になって、15桁ほどの四則演算が1秒で暗算できるようになったとしましょう。実は、全人類がいっせいに計算をしたとしても、ちょっと速いパソコン程度の能力にすぎません(しかも人間は計算を間違えます)。一方、スーパーコンピューターはパソコンの1千万倍ぐらい速く計算します。

計算機シミュレーションは、そのような計算機の圧倒的な速さを活かし、複雑な自然現象を計算によって擬似的にコンピューターの中に再現して、自然現象の原理を解明したり未来の現象を予測したりしています。

その最も身近な例は、私たちが毎日お世話になっている気象予報でしょう。ビルを設計するときには、建物が十分頑丈なことをやはりシミュレーションによって確認します。現在は、高効率の太陽電池や燃料電池を探ってエネルギー問題に貢献したり、これまでにない効果を持つ新薬を探したりするなど、計算機シミュレーションは世界が直面するいろいろな問題への取り組みに使われています。

そればかりでなく、計算機シミュレーションは誰も目にしたことのない世界をも明らかにしようとしています。宇宙の始まり、原子核の中、まだ作り方すらわかっていない物質の性質、物理法則が現実と違ったらどうなるのか、現実にはない物質があったら何ができるのか……そんな人間の想像力を助け、科学の新しい世界を切り拓く力を内包しています。

しかし、計算機シミュレーションは万能ではないので、使い方を誤れば大怪我をします。ここではこれ以上深入りしません。夢はたいせつですが、きちんと使いこなせる実力をつけることが第一です。

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