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学生による学科紹介

情報科学科生は自分たちのことを「Iser」と呼びます。
Iser はどんな日常を送っているのでしょうか? 授業は? 演習、実験は? 食生活は? アルバイトは?起床就寝時間は? 色々な人に色々な生活を語ってもらいました。

座談会(博士) 〜研究生活〜  | 参加者:田浦(D3,14期)、日置(D3,14期)、建部(D3,14期)、高橋(D3,14期)、司会:中出、撮影:吉羽
1996年04月05日
研究分野―田浦

司会: まず皆さんの研究分野と研究目標をお聞かせ下さい。

田浦: 研究分野はプログラミング言語の設計とか、それを作ったりする。目標はまあ、なんでもいいんですけどとりあえずちょっとはこの世界で影響力のあるものを、という。

司会: 影響力を持つっていうのはもう少し具体的に言うと。

田浦:だからね、影響力を持つっていうのは、何ていうかこの人の言うことは企業の人が聞いてくれるとか。例えばアメリカなんかではアーキテクチャの関係で大学にいる人が先進的な意見を持って、で大学だけだとやっぱりなかなかこう本当の意味で世間に浸透するような実現が為されないので、大学の先生が言ったことを企業の人が聞いてそれをその通りやって、まあ実際それで世の中が少しずつ変わっていくと。まあそういう風になれたら一番。
研究分野―日置

司会: じゃあ次に日置さん。研究分野とご自分の研究目標をお願いします。
日置:研究分野は基本的にはビジョン屋さんと画像認識屋さんみたいなのことをやってて、画像から意味を取り出すというか見ているのが何であるかコンピュータに分からせるということをやっていまして。目標っていうのは要はコンピュータに人間的になってもらうというか。これは世間でよくいわれるような奴に聞こえるかもしれないけど、究極的にいえばやっぱり人間に近い、逆にいえば人間の仕組みを理解するというか、人間の構造はどうなっているのかというのか、目ならどんな風に見てるのかっていうのを単に好奇心というか科学的な欲求というか理解できたら嬉しいと思うんで、そういうのが分かるようなものを現象方面とプログラム方面から両方攻めていけたらいいかなと。

司会: 認識っていうのは例えば平面的なデータから3次元的な構造を抽出するとかですか。

日置:だから人間みたい人間みたいっていうと夢みたいだから、実際のところはカメラがこういう変換をかけるからこういうものが映ってるとかいうようなかなりベタベタな話になってしまうんだけれども、最初はやっぱそういうところから積み上げていかないと。僕らっていうのは普段はどうやってるのかっていうその部分を飛ばしちゃって理解した気になってしまってるところがあるんで、その辺をちゃんと機械的にシステマティックに研究するというのがあって。

司会: そのメカニズムを解明していくということですね。
研究分野―建部

建部:研究分野は並列数値処理で、やってることとしては今特にやってるのは偏微分方程式を効率的にしかも高い並列性を持って解けるような解法アルゴリズムっていうのを考えて、それを実際に並列計算機に実装した時にどれくらいの性能が出るのかっていうのをやっています。まあ目標としてはやっぱり世の中これから科学技術計算とかやろうと思えば並列計算しかないわけでそういうニーズが高まっていて、その中で広く使われるようなものが作れればなと思ってます。

司会: この並列化の基本的な欲求というのはやはりスピードなんですか。

建部: もちろん。

司会: 並列マシンとかで計算を速くすると従来よりも遥かに多くの計算が短時間でできるわけですよね。そうするとその計算ができることによって今の社会の何がどう変わっていくのでしょう?

建部:今そんなにある応用をターゲットにしてやってるわけじゃないので具体的に何がどう変わるかっていうのはちょっと言えないんですけど、まあ今まであまりにも複雑ですごいいい加減にしか解けなかったような問題が、そういうすごい計算機パワーのある並列マシンをガンガンに使える様な枠組ができれば解けてしまうと。

司会: かなり汎用的な目的を持っているんですね。
司会: じゃあ、次に建部さんお願いします。研究分野と研究目標は。
研究分野―高橋

司会: じゃ高橋さん、研究分野と研究目標をお願いします。
高橋:ぼくは形状モデリングといわれている、いわゆる形状をどういう風に表現したらいいか理解したらいいかということをやっていて。まあ世間的にCADと呼ばれているシステムだと形状をどう設計しているかというと多面体というか角張ったものがベースになっているというのが基本で、例えば曲面を表す時にはその上にパッチを当てるということになるんだけれども。でまあ、そうじゃなくて曲面ということを先に仮定しちゃって、そういうのを本来の性質として使っちゃうことができるのも面白いと。で、世の中結局多角形ベースなんですよ、基本的に形状の表現っていうのは。頂点があって稜線があって面があって。ぼくのは、そうじゃなくて先に曲面有りきっていうアプローチなんですよ。

田浦: 今の現状は多角形で近似しているようなものを曲面で近似してみようと。

高橋: ニーズとしては今曲面の方が多いからね。逆に曲面から入っていけば、曲面固有の性質を使って情報量が落ちるとかそういうことがあるわけよ。そういう意味では貢献かも知れないね。

司会: ニーズが曲面の方が多いっていうのは具体的に言うと。

高橋: 例えば医療機器の設計であるとか。いわゆる内臓とかね。

司会: あ、人工臓器とかですか。

高橋: うん。そういうのをCADでやってるところもあるし。後は車のボディとかも結構そうなんだけども。

建部: 車のボディって曲面だと結構作りにくくない?

高橋:結構作りにくいけど、でも車のボディとかは基本的に四角形のパッチでとまりやすいからね。それに比べると例えばほらCTとかから臓器の形状を復元したりとか、そういうのは四角形のパッチだけでは全然通用しない話だからそういう方には向いていると思うんだけれでも。また、多面体形状を曲面としてとらえて特徴を抽出するという研究もあるし。ま、個人的な目標としては自分で楽しければいいんだけど(笑)。

海外で学会

次に皆さんが研究活動を通して嬉しかったこととか困ったこととかを日常生活から選び出して頂ければと思います。

建部: まあやっぱり一般的に何がいいかっていうと、月に1回とか2カ月に1回位でどっかに旅行ができちゃうっていう。

司会: それはどうして行けるのでしょう。

建部: まあ学会(注2)があるっていうことですね。

司会: その学会にご自分の論文が出ている。

建部:で、だから学会にかなり頻繁に行けるということと、それでやっぱり何がいいかっていうと、そこで同業者というかいろんな研究者と会って、顔が広くなるとかいうのももちろんあるし、そこでまたすごく有意義な話とかも聞けるし。ある発表をすればその発表について色々な人が何かしらここはこうじゃないのかというような話もあるし、そういう意味ではすごく有意義だし。学会に行っていろんな人と知り合いになって、でまあいろんな大学の先生に話を聞けたりとか自分のやってることを紹介したりとか、世界中に知り合いができて。

司会: それがやはり研究してて良いなと思うところなんですね。

建部: まあ、ついでに旅行もできたり。

司会: なるほど。皆さんはどうですか。

建部: 田浦、首かしげてる。

田浦: そういうポジティブな心境じゃないから俺の場合。

司会: え?どういう心境なんですか。

田浦: もう、早く終わってくれないかなあって。それまでひたすら寝て過ごす。

司会: それじゃ学会の発表直前、他の人の言うことなぞ、

田浦: そうそう、耳に入らない。

建部: その割には発表落ちついてるよね。

田浦: いや、そういう風にしてこそ。そういう風にしないと発表できない。ある境までは人ともしゃべるんだけど、そこを越えるともうしゃべらない。

日置: その時は無心?

田浦: というか、ひたすらイメージトレーニング。話しかけられてもしゃべんない。建部のスピーチ(注3)の時もそうだった。

建部: それって誰にも分かんない話題じゃない(笑)。

田浦: だからね、学会発表をあまり楽しむというのはないなあ。

司会: じゃあ発表終わった後はリラックスして。

田浦: 終わった後はね。でもまたこれでさらに力をつけるにはと。

司会: 絶えず満ち足りることなく。なるほど。

建部: あんまり楽しくないの?

田浦: 楽しむという余裕はないね。

建部: それだとさ、わざわざ時間使っていく意味があんまりないじゃん。じゃあどうして発表するの?

田浦: そりゃやっぱりしなきゃ、置いてかれちゃうでしょ。

建部: それだけのために行くの?

田浦: うん。それだよ。

建部: そのために苦痛を耐えて。

田浦: そうそう。という感じ。

司会: 己れの影響力とプレゼンスを強めるために。

田浦: そうそう。

司会: 闘ってますね(一同:笑)。建部さんはそんなに苦痛とかは味わわないんですか。

建部:ま、修士の頃は発表の前とかは人の発表なんか全然聞けなかったし。そんなの聞いてると自分の発表の内容忘れちゃうんじゃないかとか思って何にもできなかったんだけど、今は自分の前の発表でも一応質問とかできたりしちゃうから。ま、発表はOHPをちゃんと準備していけばさ、後は自分の言いたいことを言えばいいだけだからさ。だからまあ俺はそんなに苦痛っていう感じじゃなくて。まあそんなに好きっていう訳でもないけど。

日置: ここにいたらずうっとここの人間としか会わないから、やっぱり外の世界に出ていくといいんじゃないの。

建部: 学会はもちろんどんどん発表した方がいいと思うよ。

司会: 他に何かありませんか。

田浦: 学生になったら、塾講(注4)をすることをお勧めする。

司会: それはどうしてですか。

田浦: 発表の練習として。なるべくこう生徒が厳しいところ。

司会: 心臓を鍛えるということですね。他の方は?

高橋: 僕は大体年に1回海外に行くっていう感じなんだけど、前はオランダに行きまして。

建部: オランダではどうだったの?

高橋:もちろん発表する前は、人の話なんて聞いちゃいないけれども、でも近年の研究の動向が知れるっていうのは1つあるよね。もちろんプロシーディング(注5)とか見れば分かるけれども。やっぱり中で聞いた方が今先端がどこにいるのかとかが良く分かるから。また、はやりに置いてかれるとちょっとまずいし、はやりとかをじかに知ることができて非常にいい刺激にはなりますね。あとまあ行ったらしばらく帰ってこなくても文句言われないから結構遊んで帰ってくるっというのはあるけれども(笑)。

海外での食生活、そしてアクシデント


建部: 田浦さ、ちょっと話変わっちゃうんだけどさ、海外行って楽しかったことはないの?

田浦: ま、大体早いとこ帰りたいなあと思ってる。
建部: だっておいしい肉あるでしょ。

田浦: 肉おいしくないじゃん。

日置: どこの肉。

田浦: アメリカの肉。

建部: おいしい肉はおいしいんだよ。

田浦: かたいよ...。

司会: 向こう行っても中華とか日本食に行くクチですか。

田浦: いや、そこまでは行かないけど。

司会: マック?

田浦: そう。一人だと大体その手のとこ。向うのなんかバリューセットみたいなのを食べる。それで向うのお姉ちゃんが愛想が悪いんだ、日本のマックと違って(一同:笑)。こっちも英語が聞けないもんだから妙に静粛になって。

建部: ニューヨークの人は愛想が良かったよ。

田浦: 教育されてるんだ。

司会: いろいろありますね。

建部: そういえばなりお(注6)昔××行ったんだよね。

高橋: 行ったよ。ぶん殴られてさ。

司会: ××へ?

高橋: 3週間とちょっと行ってきたんだけれども、期間の半ば辺りに向こうの大学のキャンパス歩いてたらぶん殴られちゃって。顔パンダみたいにはらしちゃってさ。

司会: それはその、強盗みたいなものが?

高橋: うん、そうらしい。殺そうとするつもりはなかったんだろうけれども。金奪うつもりだったんでしょ。なんか4人くらい来て。

司会: 囲まれて?

高橋: うん。それでボッコンボッコンやられちゃって。

司会: (束の間、絶句)

高橋: なんかまあ、結構すごいとこだったね。

田浦: それで金取られたの?

高橋: いや、その時たまたま金持ってなかった。だから渡したくても渡せなかったんだよ。10日間くらい跡がひかなくて、パンダさんみたいな顔してた(笑)。

田浦: 世の中物騒だね。

高橋: 国によっては日本人とかよく狙われるみたいよ。

建部: 田浦もね、成田空港でいきなり盗られたもんね。

司会: それはなんですか?

田浦: それは外国じゃない(苦笑)。初めての海外で。

司会: ウキウキと。

田浦:ウキウキじゃなくてドキドキ(一同:笑)。で、研究室の人はみんなもう先に行ってて、俺だけ確か塾講で遅れて1人で行くわと。で、トラベラーズチェック(注7)を買って、あれってすぐに名前を書きなさいって書いてあるでしょ。だから一生懸命に書いてた。でその時に財布をちょっと脇に置いておいた。で書いてる間に何者かに..。

日置: 成田で?

田浦: うん。

高橋: 日本でもあるのか。

建部: それ以来田浦もう財布とかパスポートとか取り出しやすいところに入れるなんて危ないことはやんないんだよね。

田浦: そうそう。

高橋: どこに入れてるんだろう。

田浦: 首からかけてる。でも最近ついにやめたけど。

司会; 最近は更に奥深くに?

田浦: いやもう、まあいいやと(一同:笑)。めんどくさいから。

建部: 結構大変な目に会ってるよね。

司会: アクシデントってあるんですね。

高橋: そういえばホテルの金庫にトラベラーズチェックを忘れちゃってさ。

司会: え、それでどうなったんですか。

高橋: お金使い切りそうになってちょっと死にそうになった。オランダからイギリスに行く時に金庫に預けたまま出て行っちゃってさ、こっちも向こうも気づかなくて。ちょっとはまったことがあったけど、ぎりぎり間に合って返ってきました。

研究者への道

司会: だいぶ時間も経ちましたので、いよいよですね、「研究者の道を選んだ理由」を。
建部:やっぱりちゃんとした意見として言っておくと、基本的に修士を出ると就職するにしてもドクターに行くにしてももう研究者の道なので、大きく見ればそんなに差はない。だから同じ研究者が企業で研究するのか大学で研究するのかということで。あと強いて言えばドクターコースに行けばうまくいけば3年でドクターが取れる。それ位の差なので、まあ別に企業に行ったってそれから大学の先生になる人もいるので、別にそんなに大きく方向が変わるということもないのでそんなには違わない。

田浦: じゃあなんで修士に行ったの?

司会: そうですね。むしろそこのところが。

建部: だってそれは最初から思ってた。

田浦: まさか産まれた瞬間から思ってたんじゃ(一同:笑)。

建部:やっぱり情報科学を研究しようと思うならさ。学部だとあんまり研究って感じはなかった。学部出てそこで企業に行って研究するなら別かもしれないけどそういうのってあんまりないと思うし、それってあんまり大学に行ったメリットていうのが活かされていないっていうかそこで学んだことがあんまり活かされていない。

司会: ていうことは建部さんはもう情報科学科に行くことを決めた時点で、情報科学科の研究者になろうという意志を明確に持っていらした。

建部: まあ。

司会: いつ頃から持っておられましたか。

建部: 昔からコンピュータに興味を持っていて、中学校か高校の頃にすごい、日本で有名な”TRON”(注8)っていう大プロジェクトが進行していて、それが東大の理学部情報科学科の坂村助教授がやってるという話を聞いて、ここに行こうと。

一同: おー。

司会: そうだったんですか。

建部: 東大に入ろうと思ったのはそれでだもん。だから東大で情報科学科だなっと思って。まあだから昔はそんなに情報っていうのがなかったから、東大の情報科学科に行けばなんか面白そうなことができるなっていう位の気持ちで。

田浦: じゃあ1年のうちからもう情報だって、

建部: 思ってたよ。

日置: っていうか俺も選択肢には入ってたけど、他には電々(注9)とか。

田浦: 俺ね、第2回目の進振りチェンジ(注10)の時に初めて情報に出した。あれって3回位希望出せるでしょ?3回目の時に初めて情報に出した。

司会: チェンジの前は。

田浦: チェンジの前は宇宙。

司会: その頃は最難関でしたか。

田浦: その頃は確かすごかったね。

建部: あきらめたの?

田浦: ご挨拶な(一同:笑)。

司会: その心変わりというのは。

田浦:そもそも大学に来る前や入った当初は、漠然と数学科にいきたいと思っていた。でもやはり数学は、めちゃくちゃ才能バリバリの人でないと、何の役に立つのか悩んでしまうというか、こうあまり役に立たないことをやるといけないというか、きっと大変に違いないと。でまあその反動で一時は工学部をずっと志していたわけ。で、機械工学とかあの辺の本を見たりとかしてたわけだけど。最初のうちはまあ何のために役に立つのか分かってる話っていうことで面白かったんだけど、割と原理自体がもう与えられちゃってて適用ばっかりっていう感じが本を読んでいて自分なりに思って。ちょっとこの中間ていうか何のために役に立つのかって悩まなくて良くてなおかつ理学部的なところということで情報科学科に。

司会: 理学部的というのは。

田浦: 好きなことを考えていいというか。コンピュータの世界は基本的に何考えてもいい世界じゃない。まあアルゴリズムの中には数学も使われてるわけだし、そういうのをこうあんまり大したことなくても役に立つっていう救いがあるじゃない、情報の場合は。

まあそうやって数学っぽい考えがたくさん活かされる場面で、なおかつそれがプログラムという動く形、見える形で実現されるっていうのはいいんじゃないかなあと。

司会: バランス的に自分の欲するところだと。

田浦: そうそう。

まあ俺が読んだその機械工学の本がいけなかったのかも知れない。その本は基本的に内容自体は高校生の内容だったわけ。もちろんそれだけで機械工学が済むとは思わないけど、その本に書いてあったのはとにかくそういうことだったわけ。それで徐々に別のものの方がいいかなあと。

司会: 研究者を目指し始めたのはいつ頃なんですか。

田浦: それはいつの間にか。

建部: 大学入る時以前じゃないの?

田浦: 違うよ。

建部: 大学入る前はどうと思ってたの。

田浦: 4年で就職しようと思ってた。

建部: どこに。

田浦: どっか。

建部: 日置君はいつ頃から情報科学に進もうとして、更にドクターコースに進もうと思ったの?

日置:ここに来る前はコンピュータにはそんなに触ってなくて。俺らが中学になった位から段々パソコンっていうのが出てきて。なんとなく触わる機会はあったけど、でも高くて買えなくて。持ってる奴もいたけど。だからなんか見ててお店とかで触ったりして、面白そうだと思って思う存分使ってみたいと思って。それでコンピュータを触われるところはここだろうと。

建部: 入る時に敷居は高くなかった?

日置: まあそれは別に。俺はあんまり触わったことなかったけど。

田浦: 俺はもうむちゃくちゃ敷居が高かった。だって俺がまずコンピュータに始めて触ったのは大学入ってからで、しかも駒場の情報図学実習ってあるでしょ。あれ全部人の写してたから。

日置: えー。

田浦: 中出君の時はどうだったの?俺たちの時はTURBO PASCAL(注11)でやっていて。

司会: 一緒ですよ。図学の図形を描いたりとか。

田浦: 俺あれもう全部人の写してたから。分かんないんだもん、純粋に。ソーティング(注12)だなんだって言われても何をやってんだか。俺のその時のレベルはだからこうF9を押す(注13)と何かとにかく走ってくれる。でコンパイルが何かも全然知らない。

日置: それはでも別に知らなくて不思議ではないと思うけど。ていうか何かのおまじないみたいなもんで、手続きとして覚えてる訳で理解してる訳ではないと思う。

田浦:これは酒の席の持ちネタなんだけど、何でコンピュータに惹かれたかっていう話で。最初はだからそういう状態だったから、よくコンピュータはすべて2進法で表現してプログラムですべて動いてるとか言うけどさ、PASCALとかで演習してても絶対そんなこと分かんないだよね。PASCALで演習できることっていうのは、例えば答をwriteln(注14)とかで表示して、”Answer is:” 何とかとかで終わるプログラムが作れるだけであって。だから演習やっててもさ、これとワープロとかゲームとかが同一直線上の延長上にあるっていうのが全然分かってなくて。ああいうちゃんとしたプログラムっていうのはなんか別の方法を使って作るもんだろうとずっと思っていたわけ。だからPASCALで演習されても何が言いたいのか全然分からないていう感じだったんだけど。ある時啓蒙書で「TURBOPASCALプロフェッショナルマニュアル」ていうのが町で売られていて。それに何が書いてあったかっていうと、PASCALでのメニューの出し方とか。それは単にどっかを反転表示させてっていうだけの話なんだけど、それをこう見た瞬間に「ああPASCALで何でも好きなことができるんだ」ってことが分かった訳よ。この自分が使ってるプログラミング言語で。それを知って情報科学科に来たと言っても過言ではないくらい。タイミング的にも。

それを1回知っちゃうと、例えばこのアルゴリズムでソーティングするのととこっちでソーティングするのとではスピードが全然違うとか、そういうのが純粋に新鮮な感動としてまた感じられるようになった。それ以前はなんか、別に10秒かかろうが0.1秒で終わろうがどうでもいい訳じゃん。プログラムが何の役に立つのか分かんないんだから。ワープロがこの延長上にほんとにあるんだっていうのが分かった時にとりあえず来てみようかと思うようになった。

司会: ターニングポイントはその1冊の、

田浦: その時に「TURBO PASCALプロフェッショナルマニュアル」にめぐりあってなかったら来てなかったよ、きっと。

建部: そういうのは結構誰にでもあるよね。

田浦: 多分普通の人は小学生、中学生の時に初めてBASIC(注15)に触れたとかなんだろうけどさ。俺はやたらと遅かった。

で、そのグラフィックの演習があったでしょ。あれで中身は全部写して、自分で作ったのはどの演習問題走らせるかっていうのをメニューに出すというそこの部分だけやった(笑)。

メニュー作ったらいい点取れるのかなって思ったらCでした(笑)。

建部: それギャグ?

一同: (一瞬の沈黙の後、笑い)

司会: 他の皆さんはどうですか?

高橋:一応僕は僕は数学科志望だったから。受けた大学も全部数学と名のつくところばっかりで。一応数学科に進むつもりで2年まで上がったんだけれどももうそこで数学ついていってなかったんで、どっかに鞍変えしなきゃいけないかなっていうのが半分(笑)。ただやっぱりできなくても下手のよこ好きっていうかやっぱり好きだったと思うんで、応用数学っていう感じでここをとらえていた感じはする。僕も大学からパソコンとか触り始めたクチなんだけれども、嫌いじゃなかったから。後もう一つは、今図学の話が出たけれども、僕はあれに結構感動した方なので。それがやっぱ嫌いじゃなかったんだと思う。まあ結局形状を扱う世界に入ってきたから言えるんだけれども、目で見えるものを扱うのは好きだっていうのと。ターニングポイントといえばその演習が結構影響あったと思う。

司会: じゃあ研究はずっとしたいと思っていたのですか?

高橋: 分からない。僕も結構成りゆきっていうところもあるから。ただ先生にはなりたいとは思ってた。高校の先生でもいいし。

日置: 僕はゲーマーだって感じ。

建部: BASICでゲームを作って遅いからアセンブラとかそういう?

日置: いやそんなことはできなかったけど。小学校の頃はゲームウォッチ。ああいうのがはやり始めた頃でおもろいなあとかいってやって。それで同時期くらいにP6とか段々パソコンが触われるようになってきて。

建部: PC6001?

日置:うん。それで何か自分で作りたいって思うようになったのかな。なんか自分が書いてそれがその通りに動くだけで面白かった。このキーを押すとこっちに動くとかそういうのが自分の書いた通りにリアクションが来るだけで面白いって思って。それでまあチョコチョコ触りたくなって。でも別にBASICの本に載ってるのを打ち込んでやるくらいで。しかも持ってなかったから学校帰りに店でドーンと座ってわけの分からんアドベンチャーものとか作って遊んで。その延長でコンピュータを本格的に触りたいと思うようになってきて、図学演習とかもまあ自分なりに工夫をしようという形を考えたりして。

田浦: 俺より気がつくのが早かったんだ(笑)。

日置: 他にもあったかも知れないけど、僕が見つけた中ではここが一番自分の好きなことがやれそうだなっていうことで来ました。

司会: じゃもう研究もずっとしたいと。

日置:研究っていうかコンピュータを常に触われる環境がいいかと。特にこれはそんな純粋な動機じゃないんだけど、メールとかニュースとかそういう環境っていうか単体でどうっていうんじゃなくていろんなところにつながっててある意味面白いと。そういう様な環境にいたいなっていうのがあって。周りの環境が気に入って居ついてしまったっていうところが。

情報科学科で体得したもの
司会: なるほど。 じゃ、みなさん色々話をして頂きましたが、そろそろまとめの方向へ行こうと思います。みなさん色々な思いを抱いてこの学科に入ってきて過ごしてこられたわけですよね、それで自分の中で変わってきたもの、あるいは掴んできたものがあれば伝えて頂ければと思うんですが。

建部:別に情報科学科っていうことには関係しないかも知れないけど、学会とかに行ってて自分が何か言ってそれに対してとってもむちゃくちゃ自信に満ちあふれたような答え方をされると、そんなことはないと思っていても一瞬そうかなっていう風にやっぱりどうしても思ってしまうことがあるよね。

司会: ありそうですね。

建部:それは良く考えると実は向こうが大嘘をついてたりとかそういうこともあったんだけど、そういう意味では自分で考えてることっていうのはそれなりに根拠とか考えてるんだからひるまないで、相手が偉い先生だったりすることもあり得るけど、それに負けないで。頑張ってっていうか自信を持ってっていうか。

司会: そういう力を身につけてきたと。

建部: 身につけてきた、かなと。

司会: 素晴らしい。

建部:身につけないとこの業界はやっていけないかなと。それはその時にも思ったし。自分の主張をガンガン言われると、あんまり考えないで聞いてるとそうかなって思っちゃう。自分の考え方っていうのをちゃんと持つようにしなきゃいけないし。人の言うことを鵜呑みにしちゃいけないなと。

司会: 他の人は?

日置: 前はほんとに博士っていうと、なんかすごい偉いことが起こるっていうかかなり進むんじゃないかと考えてたけど、今はまだこれからだっていう風になってきたんだと思う。

建部: そうだよね。博士課程とかいうとさ、「えっ」とか思う感じだよね。

日置:すごい遠縁というかかなり上っていう感じだったけど。博士まで行ってみて自分が研究者としてどう生きるのかとか考えられるようになったというか。途中で就職しても研究やれることはやれるだろうけど、企業だったら特にビジネスだからそんな好き勝手にはさすがにできないし。ここでは雑用とかはあるけど基本的には一応好きなことやらさせてもらってるわけで、そういうことができるのは確かにここにいるからだと。

司会: 他には。

田浦:情報科学科に関してはまあ、他の学科のことを知ってるわけじゃないから全然大したことは言えないけど、いろんなタイプの人間が力を発揮できる所じゃないかなあという気がしている。数学っぽいことが好きな人もやることはたくさんあるし、純粋にコンピュータが好きというかそういう目に見える形で現れるものが好きな人も活躍できるし。その2つが割と直結して、目に見えるものと理づめの世界が結び付いてくれてるという意味では魅力的な学科なのではないかと。自分が来たのもそういうところがあるし。

司会: いろんな人が活躍できる余地があるということは、逆に言うとどういう人が強くなれるか良く分からないということですか?

田浦: それはまあそうでしょうね。とりあえず情報科学に頭っから向いてないっていう人はあまりいないでしょう。ある意味では両方必要だっていう言い方もできるんだけど、何か得意分野があるとそれの活かし方は色々あるという学科なのではないでしょうか。
司会: うまくまとめてしまいましたね。 大体そんな所でしょうか。あと何か言い残したことがあればお願いします。

建部:この前高校生にコンピュータを教える機会があってそれで思ったんだけど、やっぱり何かしら敷居が高いような感じがあるらしくて。来ていた人はコンピュータ触ったことがあるっていう人ばかりで。そういう意味ではなんかパソコン買わないと何も始まらないっていう感じがあって、それはちょっと残念だなと思ったんだけど。それは現時点ではどうしようもないのかも知れないけど、大学に入って情報科学科に来ればいくらでもそういうのに触わるチャンスはあるし、それからでも全然研究すべき内容はいくらでもあるし、いくらでもバリバリにやることはできるということを伝えたい。高校とかまでに全然コンピュータに触われなかったからって、コンピュータ買わなきゃいけないとかそういう感じではない。いくらでも使い放題だし、資源とかでも恵まれてるくらいにたくさんあるのでそういう意味ではまあ、できないことはないと思って。

司会: ガーンと、是非チャレンジして下さいと。分かりました。 皆さん、今日はお忙しい所本当にありがとうございました。
脚注
(注1)CT:人体を頭のてっぺんから足の先まで超音波を使って輪切りにした情報を読み込む医療器具。

(注2)学会:大学等の研究機関が自らの研究成果を広く世の中に伝えるために発表等を行う場。

(注3)建部のスピーチ:建部さんが結婚した時に田浦さんが披露宴で友人代表としてスピーチをしたときのことを言っている。

(注4)塾講:塾講師のこと。

(注5)プロシーディング:学会が、その時発表された研究の全部または一部をまとめて世界中の研究機関に配布する冊子。

(注6)なりお:高橋さんのあだ名。

(注7)トラベラーズチェック:旅行者用小切手。

(注8)TRON:人間生活のあらゆるところにコンピュータを置くことによって人々の生活をより豊かにしようというプロジェクト。詳しくは TRONプロジェクト 参照。

(注9)電々:東大工学部電機電子工学科のこと。

(注10)第2回目の進振りチェンジ:東大は3年生以降で専攻する学科が入学時に決まってないので、2年生の夏学期が終わった時点で各自が提出した志望学科に成績順に進路が振り分けられる。この制度を通称「進振り」という。この制度は各自の希望の変化を反映するために2回まで志望先を変更することができる。

(注11)TURBO PASCAL:PASCALというプログラミング言語のためのプログラミング統合環境。

(注12)ソーティング:たくさんあるばらばらの数字を小さい順に並べ変える操作のこと。色々な手法が知られている。

(注13)F9を押す:PASCALで書かれたプログラムをコンパイルし、それを実行するTURBO PASCALのコマンド。

(注14)writeln:PASCALの命令の1つで、画面に文字や数字を出力させる命令。

(注15)BASIC:プログラミング言語の一つで、単純なプログラムが簡単に書けるため、広く知られている。