[小柳研助手さんインタビュー]
お話: 須田礼仁助手
(1996年に収録)
Q この研究室の紹介を、できれば高校生でも分かるようにお願いします。

それができればいいのですが、小柳研究室の場合はなかなか難しいですね。

基本的には、いろんな現象、特に物理現象のシミュレーションを計算機で行 なう研究が、1 つの柱でしょうね。もう 1 つは、ハイパフォーマンスコンピュー ティング、つまり並列計算機やスーパーコンピュータなどで大規模な計算をす る場合に、高速な計算機をいかに活かすかという研究があります。これらが小 柳研究室の研究テーマの 2 つの柱と考えていいんじゃないでしょうか。

Q 具体的にはどのようなことをやっているのでしょうか?

研究室全体で1つのプロジェクトというのはなくて、個人が自分のやりたいテー マを持って、研究を進める形です。個人個人がいろいろな興味を持って、いろ いろなことをやっている、といった感じですね。

ですからいくつもテーマがあるわけですが、その中で代表的なものというと、 Multi Grid 前処理付き共役勾配法(MGCG)でしょう。これは非常に大規模な連 立一次方程式を高速に解くことができる方法で、これを何人かで研究をしてき ました。計算量についていえば、例えば 2 次元の偏微分方程式を解くために 問題領域を n × n の格子を切って、その格子点の上での関数値を計算する、 ということをするのですが、性能が良いとされてきた ICCG という解法では n^3 のオーダの計算量が必要なのに対して、MGCG は n^2 で済みます。だから 大規模な問題であれば確実に MGCG が勝てるというわけです。

シミュレーションという意味では、大規模回路シミュレーションとか人工生 命を並列計算機上で実現するというものがあります。また、大きな行列(例え ば 300x300ぐらいの)の固有値の計算方法の研究も行なっています。


あと、モンテカルロシミュレーションですね。 これは乱数を使ってさまざま な計算を行なうもので、多次元積分では良く用いられますし、原子力発電所で 放射線がこの壁をどれくらいの確率ですり抜けるか、なんていうのを計算する のにも使われています。 小柳研では、このモンテカルロ法で必要になってくる いろいろなもの、特に乱数の研究をしています。質の良い乱数をどうやって作 るか(乱数生成)、さまざまな分布のをどうやって得るか(乱数変換)、そして得 られた乱数の質は良いかどうか(乱数検定)、の研究が必要なんです。
ほかにも、数値計算むきの並列言語の研究や、どこに何のデータを置くかと いうデータの分割、といった並列処理の研究も行なっています。実際に新しい 並列言語も作ることもありますし、すでにある HPF (High Performance Fortran) とか MPI (Message Passing Interface) を使って研究をするという ことも考えられます。

Q これらのプロジェクトの中で長年やっているものと、その経緯を教えて下さい。

いくつもテーマがある中で一番長く研究しているのは、MGCG ですね。MGCG というのは MG + CG なんです。MG という解法も、CG という解法も、昔から 知られていました。この CG には前処理と呼ばれるものが必要なのですが、そ の前処理として MG を使ったのが MGCG というわけです。これはそもそも小柳 先生が「MG の勉強をしてみないか」と言った時に、建部君が「CG の前処理に 使ってみます」と言ったのが始まりです。それで実験をしてみたところ、予想 をはるかに上回る高い性能が得られたのです。ある意味ではコロンブスの卵と いうか、偶然の産物とも言えますね。外国ではすでに MGCG の研究があったの ですが、日本では小柳研究室が最初でした。建部君の発表以降、日本の他の研 究者達も注目するようになってきました。CG は対称な行列にしか使えないの で、非対称な場合にでも使える解法として、CGS という解法を使った MGCGS、 その後 Bi-CGSTAB (読み方:バイシージースタブ)を使った MGBi-CGSTAB といっ た解法の研究を行なっています。

Q この研究室に来ると他の研究室と違って何かができる、といったものはありますか?

強いていえば、この研究室に来ると、物理や線形代数が分かるようになる、 といったところでしょうか。これらは、もともと理解していなくても、この研 究室でもまれているうちに自然に分かるようになってきますね。

Q この研究室では、どういう人に来て欲しいですか?

基本的に小柳先生は「○○しなさい」って言わないんですよ。だから、ぼーっ としてると、小柳研究室では何にもできません。「先生に尻をたたかれないと できない」と自分で思う人は来ない方がいいかもしれません。手とり足とりと いう感じはまったくありませんね。その代わり、何かやりたいことがあったら、 別に研究室のテーマと関係なくても、自由にできます。

Q 研究室の成果というのはありますか?

MGCG が注目を集めているのは事実でしょう。あちこちで使っているという噂 は聞きます。ただ、問題によってはうまく解けない場合もあるので、評価が難 しいですね。

効率の高い解法というのは、特定の問題に対して非常に有効というものが多 いのです。逆に、どんな問題にも適用できる解法は特定の問題に対しては大抵 遅いわけです。だから、私達の研究は「特定の問題」からちょっと外れると全 然性能が出ないっていうのは全然珍しくないんです。

Q このページを読んでいる若手に何か一言あれば。

やってることは難しそうだけど、それほどとっつきにくい話題ではありませ んので、安心して来て下さい。


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