[今井研助手さんインタビュー]
お話:浅井健一助手
(1996年に収録)

Q この研究室での研究の対象はなんでしょうか?

いわゆる理論的なこと一般ということでしょうか。

Q アルゴリズムとか?

まあ、アルゴリズムの研究をしているといってもいいかもしれません。 アルゴリズムといえばかなり意味がひろいですからね。

Q その他、理論的なことといえば?

あとは必ずしもアルゴリズムというわけではなくて、「それじゃだめだ」という ことを理論づけることもやっています。つまり、いくらがんばってもポリノミアル ではない ということ、もう少し言えば、最近ある学生がやっている例で言うと、どんな近似 アルゴリズム で解いてもだめだよということを言うということです。 まあ、あまりここらへんは強調しない方がいいでしょうかね(笑)

ただ、研究室全体でいえることとしては、理論的研究をやっているといっても、 実際の応用が見えている研究室であるということでしょう。 実際のデータなどをもとに理論を応用していることもやっているのです。

Q ではどのようなプロジェクトがありますか?

例えば、最近の例では、ビデオを作成し、学会に提出しました。 これは、計算幾何学という分野の説明で、実際にコンピュータで扱っている例です。 いままで得られている計算幾何学の成果を紹介しています。

(右図は計算幾何ビデオの1シーン)

最近何人かでやっているものとしては、2分決定グラフ(BDD)というもので、 これは論理関数(注1)を膨大なメモリを使わずにコンパクトに表現する方法 です。これは実は数学の世界でTutte多項式と呼ばれるものと密接な関係が あります。 この多項式はグラフが1つ決まるとそれに対して定義されるもので、変数に適当な 値を入れると全域木の個数とかがポンと出てきたりするとても便利なものです。 そういう多項式は計算するのは大変で再帰的な計算をしていくんだけど、 中で同じ式が呼び出されている所は共有してしまうと計算が速くなるんですが それが実はBDDの部分木を共有する表現とうまく対応していて、双方の 結果を互いに反映できるといういい形になっています。

Q その他には?

もうちょっとわかりやすい例をあげると、ゲノム情報とか最短路問題とかでしょうか。 ゲノム情報というのは、つまり、2つのDNAがならんでいたところで、 どれだけ似ているかという議論をするわけですが、それをダイナミックプログラミング という技法でとくというものです。 じつはこれは最短路問題と似ていて、DNAのマトリックスを作っておいて、 DNA似ていたら斜めに行き、似てなかったらギャップをいれて縦にいくというような ことを最短路問題のように解くというものです。 最短路問題に関しては、実際に、企業と協力して、実際の道路地図の2点をクリック すれば実際の最短距離がでるというようなシステムが動いています。

Q DNA解析の研究は実際に応用する方向に進んでいくのでしょうか?

DNAが短い場合はどういう方法でもまあ何とかなるんだけど長くなったり、 3本以上の類似性をいっぺんに見たかったりすると計算量が爆発するので、 それに対してどう手を打つかっていうのをやっています。 そう意味では応用と言えますね。 生物屋さんがこれこれのDNAがどれだけ似ているか知りたいと言うのに対して、 それが情報科学的見地からできるかどうかを調べてるわけですね。簡単にできれば それはそれでいいし、長くなってくるといちいちしらみつぶししても全然駄目で ダイナミックプログラミングとかA*アルゴリズムとかを使っていくわけです。

Q こうしてみると、理論が実際に応用されているというわけですね?

そうです。膨大なゲノム情報についてどれだけ似ているか、あるいは論理関数が 膨大になってきたときどう扱うか、といった疑問に1つのソリューションを与えて いるわけです。そういう意味でより実際的というか応用をしっかり見てる研究室 であると言えると思います。

Q 今井先生はどのような方と思いますか?

私とか、学生とかは、ゼミなどではそれぞれが専門とすることについて話をする わけですけど、 先生は、それら全てを理解されていて、的確なアドバイスをします。 しかも、先生の頭には、それらの内容が、全て関連づけられて理解されているのです。 そういったいみですごいと思いますね。

Q この研究室の特徴というのはどのようになるのでしょうか?

単に商品になるようなプログラムを作ればよいというわけにはいかないという点、 そして、単にプログラムが動いているというだけでなく、どうしてそうなっているのか ということを考えているということでしょうか。 まあ、どこの研究室でもいえることかもしれませんが。

Q この研究室にくるとどのような点が良いのでしょうか?

まあ、私は人を見て動くってのがあって、今井先生が好きで、良かったというのは ありますが(笑) そうですね、良しにつけ悪しきにつけ、非常に個人を尊重してくれるという点で しょうか。 やらなかったらダメなわけですが、自分でなにかやろうとしていれば、それに関して、 今井先生はだいたいそれを理解して、非常に適切なアドバイスもしてくださるし。 ただ、手とリ足とりということはないということでしょうか。

Q 逆に、どういう人にこの研究室に来てほしいですか?

あまり、どういう人ってのはないように思います。 どういう人が来ても、その人がなるようにしかならない。 今井先生も学生を一人の共同研究者とみていて、研究室としてどのようにしていこう とかいうのはあまりない。

Q どのような知識が必要でしょうか。やはり数学は必須ですか?

かならずしもそうじゃない気がします。 数学はあくまでも道具ですね。 たしかに、いろいろな数学の知識たとえば確率なり、なんとかの不等式なりを 使うことがでてきますが、それはアルゴリズムを性能をしっかりはかりたいといった 要求をみたすために使うだけなわけです。 でもまあそれは、数学はすきじゃないとダメということになるでしょうか。

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(注1)論理関数:0、1の入力をいくつかもらうと0、1の出力を出す関数。 関連事項が 「ハードウェアの基礎」 にあります。


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