小柳研究室 助手さんアンケート


回答者:西田助手

Q 現在、どのような研究をなさっていらっしゃるのですか?

スーパーコンピューティング, 特に連続な系を計算機上で効率的に扱うための研究が主なテーマです.

例えば, 偏微分方程式を数値的に解くことを考えてみましょう. Poisson方程式のような楕円型の問題では, 境界条件をもとに方程式を静的に満たす解を計算しますが, これを差分法で近似すると, 大規模な連立1次方程式を解くことに帰着されます. この手続きを離散化といいますが, このように定式化された問題に対しては, 性質に応じて様々な反復解法を考えることができます.

現代の計算機はもともとこのような数値計算を行うために考案されたものですが, 実際にこれらの計算を効率的に処理するためには. 問題の数学的性質や計算の手続きに関する十分な理解が必要となります. このことは, 大規模な計算になるほど, より重要な前提となってくることは御理解頂けると思います.

これらは, (事務処理など) 一般の計算機関連技術と区別する意味で, 高性能計算(high performance computing) と呼ばれていますが, 当研究室はこの分野で常に主導的な役割を果たしています. 計算機性能の飛躍的な向上によって,  現在では核管理を含む大規模な問題の処理が数値シミュレーションによって代替されつつあり, 科学技術全般において, 高性能計算と密接に関わりのある研究分野は拡大しています. その点で, 高性能計算は今後の科学技術発展の鍵を握る非常に重要な分野であると言えるでしょう.

また, 皆さんもご存じのように PC に代表される廉価なプロセッサの急激な性能向上によって, 高性能計算を構成する技術にも変化が生じつつあります. OS やミドルウェアの完成度が高まるにつれて, かつては専用のベクトル計算機上ででしか行えなかった大規模な科学技術計算が, RISC プロセッサを多数搭載した UNIX サーバや, さらにはより安価な PC サーバを高速ネットワークで大量に組み合わせたクラスタやグリッド上で可能になりつつあるのです. そのためのネットワーク技術も目下急速に発展していて, 今後数年で計算機の利用形態は一変するものと思われます. 国際的な性能競争を制していくためには, 常に最先端の技術を縦横に駆使して計算環境を設計, 構築する必要があるわけですが, その意味でも高性能計算は非常にエキサイティングな分野のひとつではないかと思います.

Q 研究室で行われているプロジェクトについて教えて下さい。

現在, 非構造格子を用いた離散化手法の分散共有メモリアーキテクチャ上への並列実装技術を開発しています.

このプロジェクトでは, 非構造格子上に離散化された大規模実問題のためのロバストで高並列なマルチグリッド前処理法を提案し, 分散共有メモリアーキテクチャ上へのスケーラブルな並列実装技術を確立することを目標としています.

小柳研究室では, 不規則場モデルとしてとらえることのできる偏微分方程式系を中心に, 大規模数値シミュレーションの超並列処理を実現するためのアルゴリズムを研究してきました. 特に, マルチグリッド前処理共役傾斜法をはじめとする高並列な連立一次方程式解法を提唱して高い評価を得ているのですが, これらの研究が対象とした問題では, 基本的に規則的な格子構造を仮定しているため, より広範な分野に応用するためには, 非構造格子や動的負荷分散を処理するためのアルゴリズムや, それを実現するための高性能なソフトウェアの開発が必要となります.

このようなアルゴリズム及びソフトウェアを効率的に実装していく上で, ユーザが並列計算機の構造の詳細を意識することなく, 高い性能を引き出すことのできる開発環境が必要となりますが, そのような環境を我々の目標とする規模で実現するためには, 単一のアドレス空間を共有し, プロセッサを追加することでスケーラブルに計算資源を拡張することのできる分散共有メモリアークテクチャが適していると考えられます. 同時に, その上で最適な性能を得るための柔軟な制御機能や, 最適化技法の確立も不可欠です.

この研究では, マルチグリッド前処理法を中心に, 非構造格子上に離散化された大規模実問題向きのロバストかつ高並列な反復解法とその前処理法を提案するとともに, 今後大規模計算環境の主流を占めると思われる分散共有メモリアーキテクチャを使って, スケーラブルな並列化及び最適化を実現するための線形演算ライブラリの実装技術を確立し, これらのアルゴリズムをより高いレベルで実装するための基盤技術を提供することを目指しています.

また, これとは別に, クリロフ部分空間法の分散共有メモリアーキテクチャ上への並列実装に関する研究を進めています.

離散化された問題を解くために必要となる大規模疎行列の反復解法において, Krylov 部分空間法は今後最も中心的な役割を果たすと思われる解法の一つですが, ここではその一種で, 反復固有値解法の Jacobi-Davidson 法について, 分散共有メモリ環境でスケーラブルな性能向上を得ることのできる並列化手法, 及びそのための高性能な反復線形計算ライブラリについての研究を行っています.

大規模疎行列の固有値計算アルゴリズムは,従来 Krylov 部分空間法の一種である Lanczos/Arnoldi 系の解法を用いるのが一般的でした. Lanczos, Arnoldi 法は, それぞれ対称, 非対称問題において最も広く利用される反復固有値解法で, Krylov 部分空間における正規直交基底のもとで, 任意個数の固有値を計算することができます. 実際には一定次元の部分空間における近似固有ベクトルをもとに新たに初期ベクトルを計算し, 反復法として用いることによって記憶容量を低減させます. 反復 Lanczos/Arnoldi 法は,特に疎行列を扱う場合に実際的な解法であるといえますが,固有値が近接している場合,正確な計算が難しいことが知られています.

最近 Sleijpen と van der Vorst によって提案された Jacobi-Davidson 法は,このように比較的条件の悪い場合にも正確に固有値を計算できることから,Lanczos/Arnoldi 法に代わる有力なアルゴリズムとして注目されています.Jacobi-Davidson 法は, Krylov 部分空間法の反復の過程において, 近似固有対と残差との関係から反復線形計算によって修正固有ベクトル成分を近似的に計算し, 得られた修正値を用いて収束を加速します. 一種の加速付 Lanczos/Arnoldi 法と考えることができ, 近似固有値を用いた場合の性質は,Lanczos/Arnoldi 系の解法と同様です. 反復 Lanczos/Arnoldi 法は,Jacobi-Davidson 法において,修正方程式の計算に前処理なしの1ステップの GMRES 法を用いた場合と同一のアルゴリズムとなることから,一般に Lanczos/Arnoldi 法での加速は, Jacobi-Davidson 法における反復線形計算に帰着することができます.

小柳研究室では, 以前から並列 Krylov 部分空間アルゴリズムのマルチプロセッサ上への並列実装とその性能評価を進め, バス結合型共有メモリアーキテクチャ上で, (ループレベルでの並列処理を記述するための言語仕様である) OpenMP を用いて線形演算ライブラリを実装することにより, BiCGSTAB 法を用いた標準的な Jacobi-Davidson 法の演算カーネルについて, 極めて高い並列化効率が得られることを示しました. しかしながら, より大規模な問題を扱うためには, 分散アーキテクチャに適した並列反復解法とその効率的な実装方式の開発が必要となります.

現在, 共有メモリ型アーキテクチャの実現方式は, プロセッサの接続形態によって単一バス結合型とネットワーク結合型の2種類に大別できますが, バス結合型アーキテクチャでは, バスの帯域幅による制約から, プロセッサを一定数以上結合すると通信性能が飽和するため, 構築可能な並列環境の規模が限られています. これに対し, 主記憶を分散配置するネットワーク結合型の分散共有メモリアーキテクチャでは, 主記憶に対するアクセス時間は不均等になるものの, プロセッサの拡張性に関する物理的制約はほとんどないため, 高い拡張性が必要となる科学技術計算により適した形態であると考えられます.

このプロジェクトでは, PC クラスタを用いて分散共有メモリ環境を実現することにより, より大規模な計算環境における並列化手法に関して有益な知見を得るとともに, そのための高性能な反復線形計算ライブラリを提供することを目指しています.

Q 所属していらっしゃる研究室ならではの特徴がありましたら、教えて下さい。

テーマを見つけることが研究の最重要ステップである, というのが当研究室の方針です. 並列処理では新しい技術を実装, 評価することを最初の仕事に選ぶこともできますが, 基本的には最初から自分の力で研究を進めることになります. 大変に思われるかも知れませんが, その分短期間に力がつくことが多いようです.

Q 研究室を目指す学生にひとことお願い致します。

自分の研究を進めるようになると, 基礎的な知識の習得に割くことのできる時間は限られてきます. 学部のうちに科学, 工学のいろいろな分野に興味を持って, 将来の基礎となる幅広い教養を身に付けておいてください.

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Last updated on 12 Mar., 2002