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第3回 スーパーコンピュータのLSIを開発

プロフィール
IBM トーマス.J.ワトソン研究所|菅原豊さん(情報科学科22期)

世界に8つあるIBMの基礎研究所(IBMリサーチ)の中でも、ハードウェアに関する研究を行っているトーマス.J.ワトソン研究所(ニューヨーク州ヨークタウン)。菅原さんは、ここでスーパーコンピュータのLSI開発に関わっている。

IBMに入社するまで

院生時代は、平木研究室に所属。
・修士論文「ネットワーク処理に適したマルチスレッドプロセッサアーキテクチャ」(ネットワークに特化したプロセッサに搭載されるマルチスレッド機構の比較および検討)
・博士論文「マルチストリームパケット検査機構向け高速文字列照合手法」(FPGAによる照合方式の研究。多量のトラフィックを高速にパターン照合可能な方式を提案)
2005年に平木研究室助手となり、ネットワークの研究やCPU実験(情報科学実験鵺)の授業を担当する。
2008年にIBM入社。

先輩に5つの質問!

—Q1:学部生時代はどんなふうに過ごしましたか?

 もともとコンピュータに興味があったので、情報系の学科に進学することは早いうちに決めていました。東大の情報系の学科の中でも、最も深くコンピュータを学べると聞き、情報科学科に進学しました。

 授業で一番印象に残っているのは、やはり「CPU実験」(情報科学実験II)です。コンピュータを「作る」授業は、ほかではなかなか受けられないと思います。私自身は、コンピュータの仕組みが意外と単純であることを知り、ハードウェアの研究もおもしろいと思うようになりました。

—Q2:院生時代はどんなふうに過ごしましたか?

 コンピュータを「使う」より「作る」方に興味があった私は、大学院ではハードウェア系の研究をすることにしました。所属した研究室ではちょうど、超高速コンピュータ「GRAPE-DR」と、大容量データの遠距離高速通信「データレゼボワール」の2つの大規模プロジェクトが進められていました。最初のうちは見習い研究生でチームに参加しました。

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 博士課程3年目の秋には、海外で開催された学会に参加、ネットワーク性能をあげるための実験装置(*)をデモすることになりました。装置は残念ながらデモまでに稼動しなかったのですが、動かない原因を苦労して探ったことがよい経験になりました。

 この装置は、1年後に無事に稼動、ネットワークの速度世界記録を数種目で更新しました。またこの装置は、他の用途にも利用可能で、現在は科学の各分野で役立てられているので、苦労した甲斐があったと思っています。

*プログラマブルなFPGAとASICを組み合わせたネットワークカードを搭載したシステム

—Q3:なぜ海外で就職したのですか?

 IBMはコンピュータの分野では先導的な企業のひとつで、その中でもワトソン研究所はハードウェアの研究を行っています。コンピュータのハードウェア設計に関わりたいと、IBMへの就職を希望しました。IBMが海外の企業だから、勤務地が米国だから、選択したというわけではありません。

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 教授からの紹介を受け、勤務地ワトソン研究所で研究のプレゼンテーションを行い、インタビューを受けて、採用が決まりました。インタビューといっても、ありきたりの面接ではなく、一日かけて、いっしょに働くことになる人たちから技術的な質問をされ、議論するというものでした。

—Q4:いまはどんな仕事をしていますか?

 現在は、スーパーコンピュータのLSIを開発しています。昔からコンピュータを「作る」ことに興味があった私ですから、まさに希望通りの仕事、というわけです。特に、実用のシステムを作るという仕事は大変おもしろく、貴重な機会だと思っています。

 大学にいた時から、LSIの開発に関する知識はある程度持っていましたが、開発の要点は「性能を出すための設計」だと考えていました。いまになってみると、素人の発想であったと思います。実際に開発プロジェクトに参加してみて、最も困難なことは性能を出すことではなく、正しく動作させることだと知りました。

 LSIは一度作ってしまうと修正ができません。最初は正しく動いていても時間が経って誤動作したり、一見正しく動いているように見えても間違った計算をしているなど、厄介なトラブルも起こりえますから、所定の性能をクリアしたうえで正しく動くLSIを開発することは、実はとても難しいのです。プロジェクトでは、正しく動かすことのために多大な労力をつぎこんでいます。

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—Q5:情報科学科で学んだことは役立っていますか?

 もちろん! これまで述べてきたように、私は授業、演習、研究を通じてたくさんの知識や経験を得てきましたが、それだけでなく、情報科学的な感覚や考え方を身に付けられたことも、大きいと思っています。

 ハードウェアの設計に限らず、コンピュータに関連する仕事では、システムの構成を理解し、実際に使ったときに何が起こりえるかを想像する必要があります。そのときの理解力や想像力を引き出す元になるのが、情報科学的な感覚や考え方なのではないでしょうか。

 おそらく私の場合、10年後、20年後も、ハードウェア系の仕事に関わっていくことでしょう。どのような形で関わっていくかはまだ見えていませんが、情報科学科で身に付けた知識や経験、感覚や思考を土台に仕事を続けていくのだと思っています。

後輩たちへのメッセージ

 コンピュータに興味があれば、情報科学科はとてもオススメです。

 カリキュラムは多少難しいと感じるかもしれませんが、世界に通用するスキルを得られます。世界で活躍する多くの先輩が、それを実証しています。

 学生のうちに、困難と思えることに挑戦して欲しいですね。東大生には、すぐれた実力があるのに楽に進める道を選ぶ人がしばしば見受けられますが、そうなって欲しくはありません。

 より高い目標に向かってチャレンジする後輩を、ヨークタウンより応援しています。