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第1回 キャラクターアニメーションの新手法を研究

プロフィール
エジンバラ大学情報学部|幸村琢さん(情報科学科17期)

エジンバラ大は、古い歴史を有するスコットランド最大の大学。幸村さんは、情報学部の「Institute of Perception, Action and Behaviour」という主にロボットを研究しているグループで、キャラクターアニメーションやコンピュータグラフィックスを研究している。

エジンバラ大に行くまで

院生時代は、品川研究室に所属。
博士論文「筋骨格系モデルを用いた人体動作の生成、変形」(骨格や筋肉の力学的な働きを考慮して、キャラクターアニメーションを生成する手法を提案)
2000年に理化学研究所研究員となりイメージ情報技術を研究。
2002年に香港城市大学講師。
2006年からエジンバラ大学。

先輩に5つの質問!

—Q1:学部生時代はどんなふうに過ごしましたか?

 学部生時代は、運動会のボクシング部に所属して練習ばかりしていました。毎朝10キロほどランニングして、夕方には駒場のトレーニング体育館や大塚のプロボクシングジムで練習をするという生活です。国体やボクシングの日本選手権にも出場、国体の優勝者に1ラウンドKO勝ちしたこともあります。個人成績は、94年の日本選手権ベスト8、95年の日本ランキング10位でした(フェザー級)。一時は本気でプロに転向しようと思っていましたが、院試の勉強も差し迫っていたため、やめました。

—Q2:院生時代はどんなふうに過ごしましたか?

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当時所属した品川研究室は、コンピュータグラフィックスを主に研究していました。少林寺拳法の技の解析をしていたので、自分がやってきたボクシングと共通点があることから、所属を希望しました。先輩からコンピュータグラフィックスのことをいろいろ教えてもらって、楽しかったですね。でも、研究室の大多数は位相情報を用いたグラフィックスを手がけていたので、違った方向性を考えていた私は、最初のうちは研究面の関係が薄かったのです。

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 その後、少林寺の技を解析すべきか、人間の動作の法則を見つけるべきか、それともアニメーションのアルゴリズムを開発すべきかと、研究の目標が見えなくなったことがあります。そんな時、先輩がグラフィックスの有名な国際学会に論文を通しました。大喜びの先輩を見て、私も論文を通したいと思うようになりました。どうしたら論文を通せるかと、この分野の研究全体の流れに注目するようになって、私はやるべきことが見えてきたのです。それで、当時はまだ行われていなかった、筋骨格モデルを用いたキャラクターアニメーションを研究するようになりました。

—Q3:なぜ海外で就職したのですか?

 いつかは海外に出たいという気持ちがありましたし、修行をするなら海外で揉まれてみたいとも思っていました。きっかけは香港の学会です。開催される香港城市大学のWebページを見たら教員を募集していたんですね。応募しました。香港は生活しやすく、待遇もよく、暮らしやすい環境でした。

 次は、欧米にも行きたいと考え、各地の情報を集めながら講師の公募情報を探しました。職が安定していること、研究費が獲得しやすいことなどを考え、英国に行くことにしました。いくつかの大学の面接に行き、採用してくれた中でいちばん研究環境がよいエジンバラ大学に決めたのです。

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—Q4:いまはどんな仕事をしていますか?

 院生時代から現在まで、ずっとキャラクターアニメーションの研究をしています。いま最も興味を持っているのは、複数のキャラクターが干渉しあいながら動いているとき、いかにキャラクターを賢く動かすか、あるいはどういう表現手段で人間の動作を記述するか、ということです。

 院生時代は自分の研究とは関係ないと思っていた位相情報ですが、最近になって、体が絡みあって複雑に接触するような動作の生成に、非常に有用だと気づきました。こういう切り口は、学部時代、院生時代に学科や研究室の雰囲気の中で、自然に培っていたんですね。

 位相情報を用いた手法を提案した論文「複数のキャラクターをリアルタイムに最適に動かすための手法」(*1)は、i3Dという小規模ですが影響力のある学会に通りました。たまたま米国出張中にわかったので、ピッツバーグ郊外のホテルで1人、祝杯をあげました。

 もうひとつの論文「大規模な戦闘シーンなど大量のキャラクターが密に接触するようなアニメーションを生成する手法」(*2)は、SIGGRAPH ASIAという有名な学会に通り、まさか通るとは思わなかったので、かなりうれしかったです。

*1 "Simulating Interactions of Avatars in High Dimensional State Space" Hubert Shum, Taku Komura, Shuntaro Yamazaki: ACM SIGGRAPH Symposium on Interactive 3D Graphics and Games 2008 (i3D 2008)

*2 "Interaction Patches for Multi-Character Animation" Hubert Shum, Taku Komura, Masashi Shiraishi, Shuntaro Yamazaki: ACM Transactions on Graphics vol 27(5) 114:1-8(Proceedings of ACM SIGGRAPH Asia 2008)

—Q5:情報科学科で学んだことは役立っていますか?

 いまにして、学んだことはすべて基本的で大事なことだった、と実感しています。ただ当時は、その大切さがさっぱりわかっていなかった(これは本音です)。個々のトピックが、情報科学の中でどういう位置付けなのか、コンピュータのどんなところで役に立っているのか、体系的に見えていなかったんですね。

 情報学科に限らず、学問の体系をどうとらえ、研究や仕事にどう活かしていくかは、学校の授業で教えてもらうことではないと思います。各人が、友達や仲間と議論したり、研究をしたり、調べたりしていく中で体得していくものです。理解を助けるため、あるいは全体像を見出すために、一般書をふくむいろいろな本を読んだり、研究や開発の実際を調査、追求していくことも、非常に大切だと思います。

後輩たちへのメッセージ

 現在の私は、四六時中研究のことを考えている生活を送っています。まだ小粒な研究者なので、いかに世界の有名人を追い越すかを考え、学生と討論し、苦労しながらなんとかアイデアをひねりだそうとしている毎日です。なかなかうまくいかず、何が悪いのかを自問自答することもありますが、学生が育ち、対等に議論できるようになってきて、アイデアが日々精錬されていくのを感じます。

 研究は、1人で悶々とやる時もあるでしょうが、触媒となる環境も大切です。対等の立場でお互いにアイデアを繰り出したり、弾き返したりしていると、そこにエネルギーが蓄積してよい結果になっていくように思います。私の周囲にはロボットや機械学習の研究者が多いので、そうした人たちとの討論からはたくさんの刺激を受けます。

 どんな進路を選択するかは、その人の一生を左右します。一時的な興味や印象ではなく、その先にある仕事や、社会が求めるものとのバランスも、考慮すべきでしょう。研究者を目指す人も、就職を希望する人も、現実社会とどう関わっていくかを考え、それぞれに適した環境を選んでいって欲しいと思います。(社会的なニーズが高く、理論から実装まで幅広い分野をあつかう情報科学科は、オススメですよ。)