情報科学科の先輩に聞く!

現役学生OBインタビュー「先輩たちの仕事の原点」各界で活躍する先輩たちが教えてくれる“仕事の本質”

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女性にも向いた職場です

株式会社日立ソリューションズ|松本俊子さん (情報科学科22期)
インタビュー年月日
平成23年 3月 2日
松本俊子 
株式会社日立ソリューションズ第二研究部所属。理科一類に平成8年に入学、今井研でDNA配列の圧縮に関する卒論で学位をとり、現職場に入社。研究開発を担当。
井上裕貴(学部三年) 、臼山直人(学部三年)
春休みの平日、品川シーサイドの本社に伺ってお話を聞かせて頂いた。普段はあまり接点のない先輩の社会人の方とお話しでき、学生への熱いメッセージも頂け、個人的にも楽しいインタビューとなった。
現在のお仕事について
まず、普段のお仕事について教えてください。
研究レベルのものを製品につなげる技術を作っています。主に製品開発の部署(事業部)から依頼を受けて、だいたい半年で成果を出すことを目指して研究開発をしています。部署全体で三十人ちょっとと少数で、実際にはさらにいくつかのチームに分かれて仕事をしています。製品開発は事業部、研究開発が当部署、というのが大体の区分ですが、当部署でもお客様のご要望、さらには将来どのような要望が生まれるかも分析して、それに取り組んだりもします。
具体的にはどういう製品がありますか。
答えられないものもありますが、例えば、私のチームではありませんが、「秘文」という製品に関わっているチームがあります。ある暗号が対象に適用できるかを評価したり、その他セキュリティの研究レベルのものの業務への適用を検討したりします。AESなど暗号方式自体の基礎研究はしていません。
半年後までに結果を出さなければいけないというのはプレッシャーではありませんか。
たしかにプレッシャーもありますが、スケジュールに無理があるということはありません。研究活動はうまく行かない場合もあるので、ダメならやめる決断も必要です。半年でどうにか仕上げなくてはいけないというよりは、マネジメントの区切りとしてだいたい半年になることが多いという感じです。製品リリースの都合で忙しくなることもありますが、お客様に製品を使っていただけるのはすごく嬉しいので、あまり苦痛には思いません。スケジュールが重要なのは、研究開発以外の仕事、お客様のシステムを受託開発する業務でも同じです。もしお客様の要望が途中で変わるとしたら、それはご自身の要望がまとまっていないということなので、しっかりと話し合うことで対応します。
実際の開発は若い人がやることが多いのです。そういう技術開発を基礎として持ちながら、次はどういうことを求められるか考える方が難しいんですが、そういったことは私以上の年代の人がやっていますね。私自身は、研究にも計画立案にも関わることに、やりがいを感じますね。
生活リズムはどんな感じですか。
当社の勤務時間は9時から17時30分までです。IT業界というと夜型とかきついとかいうイメージがあるかもしれませんが、しっかりとした会社なら心配はいりません。当社のお客様は、官公庁さんとか、金融業さんとか、或いは製造業さんや通信業さんなどで、高品質のしっかりしたソフトウェアシステムをご提供しています。生活リズムはそのための基本です。そこをもう少しゆるやかに、もしくは俊敏にやっている会社さんに合わせている人達もいるのではないでしょうか。
周りの研究者の方々は如何ですか。
いろんなことに興味を持っている人がいますが、実践にまで結びつけないとビジネスにならないので、基礎研究をやることはあまりありませんね。むしろ、始めにもあったように、既存の技術をどう製品に落としこむかに注力しています。
大学時代について
大学時代について聞かせてください。
理科一類でクラスに女子は二人。情報科学科はそれまで二年に一人くらいだったのが、私の代は奇跡的に三人。この先六年間、女子が来ないんじゃないか、って言ってました(笑)。やっぱり女子は少なかったですねぇ。当時から地下室(学生端末室)があり、同級生といっしょに課題について議論したりしました。CPU実験ではアセンブリでライブラリを作る係でした。授業項目は今とあまり変わらないと思います。
ただ、今はほとんどが地下室で作業しているようですが、当時は地下で作業しても良いぐらいの感じでしたね。席も決まっておらず、自由に座れる感じでした。
(当時の情報科学科の様子。いろいろ話して頂いたが、長くなるのでまとめる)
  • カリキュラムは午前授業、午後実験。一限はほぼ無く、現在と同じ。
  • 課題の出され方も現在と同様。出されて二週間後が締切りの場合が多い。
  • 地下室(学生端末室)は当時からあった。
  • CPU実験は当時もレイトレース(今よりプリミティブだったらしい)。
  • 今井先生は当時もコーヒーカップを持って授業をしてた。今の様に英語混じりの授業ではなかったらしい。
どうして情報科学科を選ばれたのですか。
高校時代から数学や物理の理系科目に興味があったんですが、大学のそれはちょっとちがう気がして。プログラミングも授業でさわった事がある程度でしたが、書いたプログラムが書いたままその通り動くことに魅力を感じていました。あまり器用じゃないということもありましたが(笑)。進振りでの各学科の人気には波があると思いますが、情報科学科はかなり人気があったのも考慮したと思います。益田先生という人が進振りで学科を紹介していて、その人は一回企業に出てから東大の先生になられた方なんですけれども(しかも当時の学部長)、その方が間口の広さというか、人材の交流があるという所を強調されていて、それに惹かれたこともあります。あとは、他の理系の実験と違って時間が自由なのも魅力的でした。プログラムを書くのはPCがあればできるし、動かしている間は前に張り付いていなくてもいい。今でも、週末に帰る前にプログラムを起動して走らせておくことがあります。月曜オフィスに来てみたらコンパイルエラーで止まっていた事があって(笑)。それ以来、コンパイルが通ることを確認してから帰るようにしています。
研究室は今井研と伺いました。
卒論ではDNA配列の圧縮について研究しました。DNA配列をzip等で圧縮すると逆にサイズが増えてしまうんです。これが不思議で研究しました。 元々の2ビット(ATGCの4種類なので)から、卒論の三箇月間でたしか1.6ビットくらいになりました。植物の方が圧縮率が高くて、人間はそれほど圧縮されません。これはエントロピー(情報量)に関係しますね。
今井研は優秀な方が多くて、特にアルゴリズムが好きな方が多かったと思います。当時、マインスイーパというゲームが流行っていたのですが、こんなの簡単に計算できるんだから、確定できないところまで勝手に進めてほしいよね、と研究室で笑っていたのが印象的です。
パズルでそれを言っちゃ元も子もありませんよね(笑)。
あと、今井研では外部からやってきたお客さんとやりとりすることもありましたね。今井先生が、外部の人と研究室の人を交流させようという意識を強く持っていらっしゃったので。そういう所で物怖じせずに議論する力は必要ですよね。
今は生物情報科学科というのがあるんですよ。生物をやりながら自分らと同じぐらい情報をやるので、大変そうです。
それもある意味で普遍的な話で、金融のお客さんは歴史的に情報システムにたくさん投資されていて、例えばATMは情報システムとしてかなり大掛かりなものなんです。そのような金融の情報システムを造りたかったら、金融と情報の両方について詳しくならなきゃいけないんですね。同じように、製造業の在庫管理システムを造りたかったら、情報と在庫管理について詳しくならなければならない。
情報プラスアルファで武器にしていくと。
まあ情報のみを扱っている人達もいらっしゃいますが、私自身は、お客さんの業務に興味が持てるタイプです。その方が良い製品が造れると私は思いますね。
でも、お客さんにはいろいろなタイプの方がいらっしゃいますよね。毎回勉強なさっているのですか。
なるべく同じタイプのお客さんを相手にするようにしています。人材育成の観点からも、その様にさせる場合が多いですね。情報と金融の専門家、みたいに。研究者の場合でも、情報セキュリティの専門家、組み込みシステムの専門家のように、特化する場合が多いのです。
情報科学科と社会人
情報科学科で学んだことは社会人になってからどんな形で生きましたか。
やはり、まんべんなく情報科学の基礎の知識が得られたのはよかったと思います。社会に出て感じたのは、コンピュータの一部の事にはすごく詳しい人、いわゆるマニアな人はよくいるが、広い知識をもつ人はあまりいないということです。計算がずっと終わらなくてそれに対してPCの性能を上げようとしている人に、アルゴリズムの計算量の点から指摘できたこともありました。
情報の世界で仕事をしようとしたとき、単純な情報技術だけでできることはむしろ稀です。お客さんの関心事に自分も関心を持たないと良い製品は造れません。その意味では、いろいろなことに興味を持てというスタンスで物事を教える情報科学科は強いと思います。
演習や実験が多いカリキュラムですが、その点はどうでしょうか。
もちろん役に立ちました。社会人になってからも様々な事を自分からどんどん学ぶ必要があり、それに対する姿勢は学生の時と同じだと思います。ソフトウェアエンジニアリング(バグをださない方法など)の分野とか、新しく学ばなければならないこともいろいろあります。
学生と社会人の一番の違いは何ですか。
利用者が複数いることですね。例えば、営業部門のためのシステムを考えたときに、管理者は現場の情報をなるべく多く得たいし、しかもセキュリティは万全であってほしい。一方、現場では面倒なことはしたくない。極端に言えばパスワードを入れるのも面倒なのです。複数の利用者の要望をちゃんと聞いて、一緒に相手の立場になって解決を考え、両方にとっての最良を出さなければいけない、という意味でゲームのような面があるのかもしれません。予算の制約もあります。学生にはわかりにくいかもしれませんが、結構お金がかかるんです。なかなか難しい課題です。
情報系の技術者としてやっていくには、修士をとらないといけないのではないかと思ってしまうのですが、いかがでしょうか。
大切なのは、IT技術にどのくらい詳しいかと、お客さんの業務にどれだけ沿っていけるかのバランスです。お客さんの言うことを理解していく際、あるいはITの分野に落としこんでいく際、また他社や海外の会社と協力しながら事業を進める際など、ITの専門家としての技術以外の技量が、多々必要になります。海外の会社と協力することももちろんあって、言語が違ったり背景としている知識が違うなかで、どう話し合うかも大事です。
なるほど。ただ単に情報系の学位を持っていたとしても、それだけではいけないということですね。
そうですね。企業にもよりますが、大学で研究した内容そのものが仕事に直結する人は稀です。むしろ修士や博士の人に期待するのは、この学科でしたら、情報技術に関する学士以上の知識の深みと厚みですね。あるいは、課題発見能力。そういう普遍的なところを期待します。あと、修士や博士課程に行くと、普通後輩を指導したり、研究室で諸々のやりくりを手伝ったりしますよね。そういうことにも期待はあると思います。
学生に向けてメッセージをください。
アルバイトをして色々な経験をするといいと思います。社会人になるとできませんから。アルバイトでいろんな職を体験するのは、学生ならではのことです。就活でいろいろな企業の話を聞けるのも意外と貴重です。それも情報系に限らず、様々な業種を見てまわるのをお勧めします。というのも、就活のように先輩社員や人事の人の話を聞ける機会は、社会人になるとなかなかありません。会社の資料も、就活生用のものが、よくまとまっていますよね。海外旅行も学生のうちにやっておいた方が良い。社会人になると時間もないし、行けても混む季節になることが多くなります。せっかく時間のある大学時代なので、地下室にこもらずいろんな経験をしてもらいたいと思います!
IT業界について
女性にとってIT業界はどうですか。情報系を考えている女性にメッセージをください。
別に女性だからと言って不利な事は一切ありません。論理的な思考ができるかどうかです。力仕事はないので、むしろ女性に向いていると思います。
私は情報科学科に進んでよかったと思っています。女性は少ないけれど、逆に言うとそれだけで目立ちます。ずっと人の後ろに隠れているんじゃ困るから、自然に目立つのは良い練習だったとも思っています。覚えられるとしっかりしようという意識が働きますからね。会社では良い仕事をして取引先に覚えてもらってなんぼという所があるので、覚えられやすい事自体が強みになります。その意味では、自分の考えをしっかりと喋れるようになるのは、社会人になっても必要なことです。
夜に泊まりこんでの作業とか、男性プログラマだとよく聞きますよね。
人によるんじゃないでしょうか(笑)。むしろ、他のウェットな実験などと比べて、パソコンは動作させる時間に制約がないので、作業の時間は融通が利きます。統計によると、とりたてて給料が安いとか残業が多いとかいうのは無いようですし、周りを見てもそういうことはないと思います。
評価される能力や、新入社員に期待する能力はありますか。
当然ですが、自主的に考える力、つまり、言われたことをただやるのではなく、何故それをやるのかを考えながらやることは重要です。例えば、駒場の基礎実験でも、誤差を少なくするには、その実験の背後にある論理や体系について知る必要がある。それに似ていますが、言われたことだけやってても良い成果は望めません。
後、私自身ずっと意識していることが、結論から話すことですね。忙しい上司等に効率的に情報を伝えられるし、順序立てて話すことで自分の中でその事柄が整理されます。
これからのIT業界についてはどう思われますか。例えば十年後は。
十年後の予想は難しいけれど、国際化が進むのは間違いありません。十年後の就業人口を現在の人口と比べて考えれば、国内だけを相手にするのは非常に厳しい。少なくとも、活躍している日本企業は海外でも活躍しているでしょう。他の業界にも言えますが、日本の企業の強みは信頼性と品質です。電車はほとんど遅れないし、ATMも止まらない。これを支えているのは基幹ITシステムです。また様々な顧客に対して、その企業に特化したレベルで効率化してきたノウハウがあります。これからも頑張らなくちゃいけませんが、海外勢とも十分に対抗できると思います。
再度になりますけど、みなさんには学生時代にぜひいろんな体験をして、見聞を広めてもらいたいと思います。
インタビューを終えて
松本さんは僕達の十年ちょっと先輩になりますが、在学当時のことになるとすごく話が通じて、情報科学科のDNAが根付いているのを感じました。情報科学は社会の基盤を支えていて、社会の様々な分野に関わっているということで、アドバイス通り学生時代からいろんな経験をしていかなきゃと思いました!