情報科学科の先輩に聞く!

現役学生OBインタビュー「先輩たちの仕事の原点」各界で活躍する先輩たちが教えてくれる“仕事の本質”

座談会トップへ戻る

より高度に活用される地図データを目指して

国土交通省 国土地理院|石関隆幸さん (情報科学科20期)
インタビュー年月日
平成21年 3月 17日
石関隆幸 
平成15年に情報科学専攻を修了し、国土地理院に入省。
現在、測図部基盤情報課長補佐。
紙の地形図に変わる新しい国の基本図データの規格を作り、データの整備を行っている。
橋倉彰宏(学部3年)、高山耕平(学部3年)
官公庁という少なからず文系主体というイメージがある場所にどういう経緯で就く事になったのか、情報科学の技術がどう生かされているのかということを質問してきました。また、現在関わっている仕事についても具体的に説明していただきました。
数学科から情報理工学系研究科へ

-情報科学科の印象は?
私は学部時代は数学科に所属していて、大学院から情報科学専攻(現在のコンピュータ科学専攻)に所属したのですが、学部生が地下室で寝泊まりしているのを見て「なんなんだ!?」と驚いたのが第一印象でした。数学科では、大学で寝泊まりをするという生活はなかったので、正直「ものすごい学科に来てしまった」と思いました。「地下室」というのが印象強くて、閉じこもっている印象がありました。

-数学科からなぜ情報理工系研究科に?
もともと進振りの時は、なんとなく数学を学びたいという思いで数学科を選んで、講義などでいろいろ話を聞いて何の研究をしようか決めていこうと思っていました。実際に数学科への進学が決まった直後に、京大で一般向けの公開講座に参加したのですが、そこで聞いたのが離散数学でした。マトロイドの話を聞いて、代数学とか解析学のような古典的な数学に比べて単純そうな問題に見えて、なぜ研究テーマになるのかわかりませんでした。逆にそこに魅力を感じて、離散数学を研究したいと思い始めました。3年生になって、ゼミの先生に離散数学を研究したいと言ったら、「数学科では離散数学を研究している先生はいません」と言われて、他の学科を調べていたときに今井先生のページを見つけて、情報科学専攻に進みたいと思いました。

-情報科学科には数学が苦手な人が多いのですが。
逆に、私は情報科学科の学部生が学ぶような分野はほとんど苦手でした。研究室の人と雑談をしているときに、たぶん部屋の掃除のことでも話していたのだと思いますけど、普通に ”garbage collection” とかいう言葉が出てきて、会話について行けなかったりもしました。今井研では、数学や工学系の分野から来た人が多くて、私みたいに情報科学科の専門的なことを知らなくても、皆さんが自分の得意分野を生かして研究していて、すごく魅力的でした。

-プログラムの勉強は?
数学科時代は講義でFortranを少し使った程度でした。研究自体もプログラムを実装して計算させる、という感じではなく、紙に式を書いたり頭の中で考えたり、というのが多かったので、必要に駆られたときに勉強する程度でした。計算量が大きい計算代数の研究をしていたので、他の研究者が作った既存のソフトウェアのソースを少し書き直したりしたくらいだったと思います。
なぜ国土地理院?
-国土地理院に行こうと思った理由は?
今井研にいるときに、企業との共同研究で交通流解析をやっていました。具体的には、2箇所のカメラで通過する車をビデオで撮影し、それぞれの地点を通過した車の高さ、長さ、色の時系列データがあったときに、どの車とどの車が同じものかをマッチングさせて、平均の通過時間はどのくらいかを推測する、という問題に関わらせていただきました。そのときに、理論的な数学をひたすら研究するのも面白いけど、数学を道具として使って仕事をすることにも興味が湧きました。
そこでなぜ国土地理院か、ということですが、ひとつは単純な理由ですが地図を眺めるのが好きだからです。また、ISO の中の、GISに関する国際標準化を検討する専門委員会に今井先生が関わっているのを見ていて、そのような活動にも興味がありました。さらに、博士2年のときにアメリカで9.11の同時多発テロがあったときに、ライフライン等の復旧の状況をGISを用いてまとめ、インターネットで提供する、という仕事をGIS関係の企業が共同でボランティアでやっていた、とニュースで見たのもきっかけです。その頃の日本ではどうなのかと考えると、当時は一般のユーザが誰でもインターネットで地図を見られるという状況ではなかったので、もう少し一般のユーザがインターネットで地理情報を見たりして、地図に親しみが持てるようにしたいなという気持ちがありました。GISのシステムを作るより、制度的にどうすべきかを企画することに興味があったので、一般企業ではなく、国土地理院を志望しました。

-授業で学んだことは実際役に立ったか?
授業で学んだことはすごくたくさんあるので、授業で学んだこと全てが役に立っているかというと、もちろんそうでもないものもありますが、役に立っていることは多いと思います。4年生の「論文構成法」の授業も出席しましたが、その内容は今でもかなり参考になります。また、研究をしてきた経験から、数学的・論理的に物事を考えるようになりました。それと、今井先生は、「人とよく交流しなさい」とか「広い目で物事を見なさい」といつも仰っていましたが、今でも仕事をするときに考えるようにしています。さらに、ゼミや研究集会での発表を多くさせていただけたのも、今役に立っていると思います。
現在のお仕事

-現在の仕事は?
測図部基盤情報課というところで、新しい基本図のデータ整備をしています。
 伊能忠敬に始まる我が国の地図整備に向けた国家的取組は、縮尺5万分1や2万5千分1地形図として結実し、国土管理や災害対応、国土の範囲の明示など、国家の本質に関わる重要な役割を果たしてきました。しかし、これらの地形図は紙に印刷された地図なので、近年の情報化の進展により、様々な制約があります。
 例えば、紙の地形図では人間が目で見て理解できるように、本来描かれるべき位置から意図的にずらして表記する場合があり、地図の位置精度が低下します。しかし、最近ではGPS等によって、一般の利用者でも高精度の位置情報を取得することが可能になり、位置精度の向上した地形図が求められています。
 また、紙の地形図を作成するときに、正確な位置を記述した後に位置をずらすなどの作業を行い、さらに紙に印刷するなどの工程があるため、利用者に届く情報の新鮮さが犠牲になってきました。しかし、Web上の地図の普及などに伴って、地図の新鮮さの要求が高まっています。
 このような制約を解消するため、国土地理院では、正しい位置で表示されたデジタルの地理空間情報を整備し、新しい基本図としていくことにしました。これを「電子国土基本図(地図情報)」と言います。デジタルデータなので、拡大・縮小で見やすくできるし、整備したデータをそのまま配信することで、利用者に新鮮な情報を提供することが出来ます。
 この電子国土基本図(地図情報)は、現在地理院のホームページで配信する準備をしています。私の課では、この電子国土基本図(地図情報)の規格(何を載せるのか)を決め、それに合わせたデータの整備などを行っています。

-地理院のページでも地図が見られる。
現在でも紙の地形図のイメージが地理院のホームページでは見られるのですが、最近のデジタル技術の向上に合わせて、Web上で見せる地図の内容も変える必要がある、ということです。ここ数年で、いろいろなWebサイトで地図を見ることが出来るページが増えてきましたしね。

-地図帳とか紙の地図はなくなっていくのか。
紙の地図には折りたたんで持ち運べたり、書き込んだりできるなど、紙の地図そのものの利点もあって、登山などで使っている人も多いので、当面の間、紙の地図がなくなることはないと思っています。将来的に、情報科学科の人が折り畳めるパソコンとかを開発して地図データを持ち運んで表示できるようになったら、状況は変わると思いますけどね。地理院で作っている地図も、縮尺2万5千分1の他にも、20万分1や300万分1など、いろいろな種類があって、刊行しなくなるものもありますし、継続して刊行していくものもあります。

-基準となるのは航空写真がもと?
今まではそうでしたが、電子国土基本図(地図情報)では「基盤地図情報」というものも使います。基盤地図情報とは、電子地図上での位置の基準となる海岸線や道路縁などのデータのことで、国土地理院では地方公共団体と連携しながら整備を進めています。位置の基準である基盤地図情報と、航空写真などの資料を使って地形図の整備をしています。

-衛星は?
航空写真と同様に、現地の様子を移した資料として使っています。特に、日本は島が多いですが、島まで飛行機をとばすということになると、燃料代がかかったり、天気に左右されやすいため、航空写真の撮影は困難なので、そういう場所の地形図の修正に衛星画像は最も有効な手段です。

-他にこれまでに関わった仕事は?
地理院に入って最初は地理情報部(現在の地理空間情報部)情報普及課に配属になりました。そこでは、インターネットで地図を配信するWebページや、地理情報を検索するための「クリアリングハウス」というシステムの管理をしていました。それまでWebサーバの管理とか、ネットワークをどうするとかほとんど知らなかったのでいろいろと大変で、Webサーバを2台壊したりもしましたが、利用者がWebの地図にどういうことを期待しているかなど、いろいろと勉強になりました。
そこで2年3ヶ月仕事をした後、測図部測図技術開発室というところで、人工衛星の画像を地形図の修正に利用できるか検証する仕事をしました。地形図修正が目的の1つである「だいち」という国産の人工衛星が2006年に打ち上がったのですが、ちょうどその打ち上げの時期で、「だいち」の画像が地形図修正に使えるかどうか検証するための準備作業をしていました。
その後、文部科学省の研究開発局地震・防災研究課というところに2年間出向していました。政府の「地震調査研究推進本部」という、地震調査に関する予算や研究のとりまとめをする機関の事務をしました。特に、研究のとりまとめの方の事務をしていて、地震が起こったときにどういうメカニズムで起きたのか資料を作ったり、近い将来に地震で強い揺れに見舞われる確率を地図にした「地震動予測地図」を作ったりする作業をしていました。
地理院に戻って、現在所属している基盤情報課で仕事をしています。

-今後Webで提供する地図も位置をずらしたりするのか?
ぱっと見て込み入っているようなところでも、Web上で拡大すればはっきりと見られるので、見やすくするために位置をずらすということはしません。正確な位置の、しかも新鮮なデータを地理院から提供することで、市町村や利用者が上乗せ情報を重ねたりすることができ、新たな地理空間情報の活用を可能にすると期待しています。
インターネット上での地図情報
-Yahooなどの地図情報とかは?
Yahooなどの地図や民間のゼンリンや昭文社の地図データは、従来は地理院が整備している地図データを地理院に申請して利用することにより、さらに詳細の地図を作っていました。最近では、会社独自に現地調査を行ったりして整備したり、Webサービスの会社が、他社の地図データを購入・加工して配信していると聞いています。

-streetviewに関してどう思ってますか?
プライバシーの問題とか、いろいろと解決する問題も多いとは思いますが、実際に見える風景をそのまま配信する、というのも1つの地理空間情報の表現方法としては有効なのではと思います。地図のように上空から見た図としての表現よりも、歩いていたり車を運転していたりしているときに見える風景がそのまま表示されるので、わかりやすい表現だと思います。

-streetviewみたいなものを国として日本でやるのか。
国としてやるとなると、プライバシーの問題などの法的な問題や、整備方法・予算といった問題、民間と同じ事をすることで民業圧迫にならないか、など様々な問題があり、すぐに同じようなことをするのは難しいと思います。
以前、空中写真をWeb上で閲覧するページを作る業務をしていましたが、実際にそれを見たユーザから、これはプライバシーの侵害じゃないか、という意見もありました。写真の解像度を荒くして、家の形が特定できないようにしていたので問題にはなりませんでしたけど。より正確かつ詳細な情報を地図に表したり解像度の高い空中写真を整備すると、いろいろと使い道は多くなるのですが、プライバシーの問題も出てくる可能性もあり、難しいところです。

-大地主さんがうちをのせるなといわれた場合どうするか?
私は今までそのような問題に関わったことがないのでよく分かりませんが、個々の事情によって対応も変わってくると思いますし、法律担当の部署等と相談して対応を決めることになるのではと思います。

-プライバシーの話とかは勉強したかったか?
今となっては、リテラシーの授業とか、著作権法などの法律の授業を受けておけば良かったな、と思います。ありきたりな話ですが、社会人になっていろいろなことに関わってきて、「学生の時にこの授業をきちんと聞いていれば、今苦労せずに済んだのに」と思うことが多々あります。授業に関してだけでも、例えば情報科学科にいたのだからハードウェアの話とか、ネットワークの話を聞いておけば良かったと思います。また、学生生活でも、もっといろいろな人と話して、他の人の研究の話を知ったり、人のつながりを増やしたりしておけば、社会人になってから役に立ったこともあったのかなぁと思うこともあります。

-昔基本図が縮尺5万分1から2万5千分1になったように、将来もっと詳しい地図が基本図になるのか?
紙だと縮尺を決めて表示しないといけないので、縮尺の概念が重要でしたが、デジタルデータでは好きなように拡大・縮小して表示できるようになるので、縮尺という概念があまり重要ではなくなります。正しい位置で表示したデジタルデータが、当分の間は基本図ということになります。
時代が紙からインターネットに変わっていったように、将来的にインターネットに変わる何かが出てきたら、その時代に合わせた基本図を考えることになると思います。
また、紙の地図でもWebで見る地図でも、今のところ2次元で見るのが普通ですが、3次元ディスプレイが普通に使われるようになったりすると、地図の表現方法も変わってきて、基本図の考え方も変わってくると思います。どうしても2次元で表現すると1次元分情報が落ちるので、例えば高速道路のインターチェンジのような複雑な立体交差をうまく表現するのが難しかったりしますが、3次元で表示できるようになれば、そのような苦労はしなくて済みますからね。

-この数年でやられていることは、インターネットの世界では画期的、重要だ。
測量の世界でも、ここ数年で画期的な進化を遂げています。最も大きな変化が、測量法という測量に関する法律が改正されたことです。これまで国の地図は紙で刊行する義務があったのですが、測量法の改正によって、インターネットで国の地図情報を提供することが可能になりました。これで、最新の地図情報を簡単に提供することができるようになったのです。
電子国土基本図(地図情報)の整備も、この測量法の改正によって可能になった施策です。インターネットで地図情報を提供するので、紙とは違った、インターネットに合わせた整備が必要になります。例えば、災害時に自治体の方が地理院の地図を使う場合に、紙地図の場合はどの地図記号が何を表すか、一つ一つ凡例を見るか、覚えておくかする必要がありました。災害などの緊急時に一つ一つ凡例を見たりするのでは使いづらいわけです。一方で、インターネットで出す場合には、拡大縮小が簡単にできるので、よく使うデータ、例えば市役所とか消防署などは、わざわざ記号にしないで文字で表記して、災害時に使いやすいデータになります。
地理院の国際協力

-地図の仕様は世界基準で決める?
国際標準化機構(ISO)の専門委員会で、地理情報システムの国際標準化を行う ISO/TC211 というのがあるのですが、その専門委員会で決められた国際標準を元に、データの持ち方などを決めています。データの構造など、具体的に国際標準が決められているものについては、国際標準に従い、データをどのように表示させるか、たとえば道路は何色で表示させるか、道路縁の線は実線にするか破線にするか、などは自分たちで検討して決めています。

-世界地図を作るときもデータ提供とかはするんですか?
世界地図を作るというのとは少し違うのですが、地球環境を解明したりするために、地球全体の地理情報を各国の地図作成機関の協力により整備する「地球地図」プロジェクトというのがあって、国土地理院はこの運営委員会の事務局をやっています。もちろん、国土地理院で作成する日本のデータも、この地球地図プロジェクトに使用されています。
また、国土地理院で行っている国際協力の1つとして、南極観測に協力しています。南極は、南極条約によってどこの国の領土でもないとされているのですが、どのあたりをどの国が観測するかは大まかに決まっている。日本が観測する範囲の南極の地理データは国土地理院が管理しています。また、イギリスに南極の地理データをとりまとめる機関があるので、そこにデータを提供しています。

-海の部分の地図はどのように作っているのか?
国土地理院の地形図では離島の地形図を作っていますが、海の部分については、海上保安庁が整備しています。陸地の地図を作る場合には実際に測量用の器械で、位置や高さを直接目で見て測量することができますが、海だと海底までの深さなど直接計ることができないので、音波や電波などを使って測量しています。

-国土地理院がここにあるのは?
なぜつくばに移ったか、というのは私は分かりませんが、国土地理院周辺には建築研究所や国土技術政策総合研究所、気象研究所といった国土交通省の研究機関や、環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省などが所管する研究機関が多くあります。自然が多く静かな場所なので、研究機関が集まるには良い環境と言えるかもしれません。
学生へのメッセージ

-今の学生にメッセージは?
やっぱり広い目で物事を見ると言うことで、自分の研究だけじゃなくて他の人の研究に興味をもったり、いろいろと話したりして、何でも吸収できるように広いアンテナを持ってほしいですね。これは研究だけに限らない話だと思います。それと、語学でも研究分野でもコミュニケーションでも、どんなことでも良いので、これは自分の強みだ、といえるものをもって欲しいと思います。文科省に出向していたときには地震関係の業務をしていたのですが、僕は地震学とか全く分からないので、気象庁とか建設会社などから出向してきた方に比べて知識は全然ありませんでしたが、その分数学的な観点の部分の仕事は任せろ、という気持ちで取り組めました。
学生時代のうちに、こういった能力を身につけてほしいですね。情報科学科の学生さんは実験とか研究とかすごく忙しいでしょうけど、7号館の中だけでも色々な人がいると思うし、7号館の外に目を向けてももっとたくさんの人がいますので、そこから学んだり感じてもらえればと思います。

-公務員試験はいつごろから勉強を始めたのか?
そもそも地理院で働きたいと思ったのが、博士1年のときにアメリカで同時多発テロが起こった前後くらいで、その頃に勉強を初めて、半年後の博士2年のときに試験を受けました。理工2(数理科学)区分で受けたのですが、学部時代の数学のことを復習したり、法律などの教養試験の勉強を半年間でざっとやりました。国土地理院に行くことを考えていたので、民間企業は考えていませんでした。
研究機関ですが公務員だから、国民の税金を使わせていただいて仕事をしているので、当然、国民に地図を使ってもらうためにはどうしたらいいか、というところに頭を悩ませているのですが、そこにやり甲斐を感じています。
インタビューを終えて
インタビューにいく前、大学で受ける授業が、本当にこれからの人生に役立つのかと少し悩んでいました。でも、石関さんの話を伺って、授業内容そのものはもちろん、研究室での交流や発表などの体験が役立つんだということがわかり、また頑張ろうと思えるようになりました。