情報科学科の先輩に聞く!

現役学生OBインタビュー「先輩たちの仕事の原点」各界で活躍する先輩たちが教えてくれる“仕事の本質”

座談会トップへ戻る

技術を知財に活かす ― 特許庁審査官として

特許庁審査第四部インターフェイス|千本潤介さん (情報科学科24期)
インタビュー年月日
平成21年 3月 27日
千本潤介 
平成16年4月 特許庁入庁 特許審査第四部インターフェイスに配属
平成20年4月 審査官に昇任
コンピュータ内部の情報転送技術からインターネット技術まで
幅広く情報転送技術に関する特許審査を手がける
池尻拓朗(学部3年)、木原朴(学部3年)
共に官庁での仕事がどのようなものかに興味があり、千本さんを紹介していただきました。
立派な建物とセキュリティチェックに少し動揺しました。
特許庁のお仕事

- なぜ特許庁に就職しようと思われたのですか?
私の場合は変わっていて、情報科学科に進学したときは特許庁の審査官も含めて技術系公務員という仕事があること自体知らなくて、たまたま大学の先輩に誘われて公務員試験の予備校でアルバイトをして、そういう仕事もあることを知りました。それでだんだんと技術系公務員の仕事もおもしろそうだなと思うようになりました。情報科学科で学んだことを活かすためには、民間や大学の研究所なども考えられますが、特許庁だと広い観点で技術を見たり、法律なども学んだりして社会とのつながりをもって仕事ができると思い就職を決めました。

- 審査官の仕事はどのような流れで行うんですか?
まずは出願の内容を理解して、既存の技術で類似のものが無いかを探すことになります。これをサーチといいます。サーチの結果、類似の技術が無く他に拒絶の理由が無ければ特許します。類似の技術が見つかった場合や他に拒絶の理由がある場合には出願者に対してその理由を通知し、反論や補正を受けつけることになります。反論や補正の結果、拒絶の理由が解消すれば特許しますし、解消しなければ拒絶します。

- 類似の技術はどうやってサーチしているんですか?
特許庁には、既存の特許公報から技術系の本や雑誌まで幅広い文献を検索できるようなデータベースがあります。そのデータベースで技術の分類やキーワードなどを指定して似たような文献がないか探します。

- 探すのが難しい場合とかはありますか?
キーワード中心の検索はピンポイントで探せる利点はありますが、うまくキーワードをしぼりこまないと膨大な文献がヒットしてしまいますし、表記法がいろいろあるキーワードは検索しづらいです。その点、分類中心の検索はキーワードのような問題はありませんが、そもそもどの分類を探すのか判断が難しいことがあります。両者の利点をうまく組み合わせるさじ加減など、経験が必要になりますね。
一見すると既にありそうだけれど文献が見つからない場合があるんですよね。審査官の苦悩というかな。容易な事だから特許は認められない、というのは審査官の主観であって、この文献に書いてあるとかいう証拠が必要になります。逆に良い文献が見つかると達成感がありますね、拒絶になっちゃうからどうかと思うけれど(笑)

- SATとUNSATみたいなものですね *1
そうそう。文献が見つかれば既存だと言うことは簡単なんだよね。無いことを証明するためにはこの世の全ての文献を調べないといけないんだけれど、当然そんな時間なんてあるわけがないし求められてもいないと思うから、どのぐらい調べたらいいかという見極めをして質とスピードの両立をできるよう努力しています。

- どのくらいの分量を審査しているんですか?
厳密ではないけれど1日に1件か、2件できれば御の字かな。今特許庁は審査の迅速化をしようと努力しているんですよ。
今は審査請求から平均して20ヶ月以上かかる状況で、急ぎのものは早く審査する早期審査の制度とか海外の特許庁で特許されたものは早期に審査する特許審査ハイウェイなどの制度とか、必要なものは早く審査される工夫はしているけれど、まだまだ時間がかかっています。今後、もっと迅速に審査が受けられるよう、審査官はがんばっています。

- 出願される特許に傾向などはありますか?
いつ頃にこういう出願が多いという傾向は確かにあります。そうした傾向をふまえて、この手の技術はいつ頃から出てきたとか、相場観が重要になります。また、似たような出願を1件ずつ処理するのではなくまとめて文献を探すなどの効率化もがんばっています。
職場の雰囲気

- 職場の雰囲気はどうですか?
上司にもよるんでしょうが、自分のいる部署は総じてフランクに議論ができるいい環境だと思います。どうしても悩む案件を1人で抱え込んでしまうと時間だけかかってなかなか進まない状況になりがちですが、そういう場合に周りの人に相談するのは重要で、それがやりやすい環境にはあると思います。こんな文献を知らないかとか、現在発見している文献で特許してよいのか否かなどを相談しています。相談することで自分が持っていなかった観点などが得られることもあるから、話しやすい雰囲気は大事かなと思います。

- 仕事のきつさとかはありますか?
審査官は比較的自由で、おおまかに何ヶ月以内にこの程度の業務をという目安はありますが、毎日何をしろというのはなくて、どの順番でやるかなんかも自分で決められます。その代わりに自己管理が必要で、1つの案件にずっと時間をかけてもいられなかったりして、やりがいがある反面、厳しい面もあります。チームでやる仕事なんかと違って有給なども取りやすいですが、その分の仕事は確実に残っているからどこかでやらないといけないですね。残業に関しては人によると思います。
情報科学科で学んだ知識
- 情報科学科を出て役に立ったことは?
新しい技術はいろいろと出てくるけれども、情報科学科で学んだ基本的な知識や一般的な考え方が役に立っています。例えば、私の担当分野の一つであるネットワーク家電について、大学で学んだことはないですが、その基礎となっているネットワークプロトコルの仕組みなどを学んだことが役に立っています。
出願を審査するときに、その技術の一番の専門家は出願人ですが、審査官は客観的な立場でその技術を評価する必要があるので、情報科学科で学んだ幅広い知識が基礎体力になっています。

- 大学の時はどんな研究をされていましたか?
平木研で、修士課程のときはウィンドウサイズとRTTをもとに一度に転送する量を調整をすることで長距離でのTCP通信を高速化する研究をしていました。そのため、今でもTCPに関する出願はなじみがあってやりやすいです。
学部の時は並列CPUに関するシミュレーションをやっていました。まあ3ヶ月しかないから大したことはできなかったんですけれどね。
これから

- 今後の予定とかはありますか?
幅広い知識を身につけるため特許審査以外の業務を希望しています *2。仕事の内容は全然違ってほとんど転職みたいなものだから頑張っていきたいですね。
将来は弁理士なんかの知財関係の仕事なんかにも興味があります。
学生へのメッセージ
- 学生に向けて一言お願いします。
特許庁は技術系が好きな人にはおすすめ。入ってからも大学聴講やセミナー参加などで勉強していくことができます。また、法律の研修などもあります。逆に就職した後も学んでいくことが必要になるので、そういうのが苦手な人には向かないです。
特許庁は技術アドバイザーなど、審査周辺の手伝いをする仕事も募集していることがあるので、特許庁に興味があればぜひ応募してみてください。

- お忙しいところありがとうございました。
インタビューを終えて

今まで官公庁に就職するということは考えたことも無かったのですが、インタビューを通してやりがいがありそうな仕事ということが伝わって来ました。選択肢が広がったので有意義でした。(池尻)

特許庁は浅く広く研究に触れることができるようです。この点が情報科学全般に興味がある僕にとっては非常に魅力的に感じました。(木原)
注釈
:*1
論理式の充足可能、充足不可能のこと。ある論理式全体を真にするような真偽値割り当てが存在することを証明するにはその割り当てを提示すればよいが、存在しないことを証明するには全ての割り当てが偽になることを証明しなければいけない。

:*2
インタビュー直後の4月から審査部を離れて国際特許関係の部署に配属されたそうです。