情報科学科の先輩に聞く!

現役学生OBインタビュー「先輩たちの仕事の原点」各界で活躍する先輩たちが教えてくれる“仕事の本質”

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人間の可能性は何歳になっても無限大

ソニー株式会社|中出元樹さん (情報科学科17期)
インタビュー年月日
平成20年 3月 19日
中出元樹 
1997年に理学系研究科情報科学専攻(今井研)を修了し同年商社に就職。その後インターネットの勃興にあわせSONYに入社し、イープラスの立ち上げなどに携わる。現在はパソコン「VAIO」シリーズを作るVAIO事業本部にて、ワイヤレスブロードバンドモジュールを搭載するノートパソコンのビジネスを担当し、主に通信キャリア(携帯通信事業者)とのビジネス開発を行っている。
インタビューを受けるにあたっては「転職歴もあるし自分をソニー社員の代表や典型としては見ないで欲しい。今回のインタビューもソニー社員としてでなく一卒業生として引き受ける」と仰っていただきました。
情報科学科3年 鈴木・加藤
日本を代表する企業の方へのインタビューを希望し、SONYの中出さんにお話を伺ってきました。インタビューのために訪れたSONY本社のエントランスには現在SONYで製造している最先端のテレビ、パソコン、オーディオなどさまざまな商品が展示されており、SONYが自社の商品に持っている誇りを感じました。
仕事について

--よろしくおねがいします。まず、中出さんの現在の仕事について教えてください。

SONYは様々な家電をつくっていますが、その中でも僕はVAIO事業本部でワイヤレスブロードバンドをキーワードとして働いています。VAIO事業本部には、僕が所属している部署とは別に、次に発売するVAIOのスペックを決める企画部というチームがあります。ハードディスクの容量をどれぐらいにするか、デザインをどうするか、値段をどうするかなどのVAIOの仕様を決める部署です。僕はこの企画部と協力して次のVAIOの開発に携わっています。
VAIOのそれぞれのパーツはSONYだけではなく、さまざまな企業と協力してつくられた部品を集めて作られています。近年では携帯でブロードバンド通信を行うことができるようになってきましたが、今ではブロードバンド通信のためのモジュールを組み込むと、VAIO単体でブロードバンド通信をすることができます。このモジュールについてモバイルのキャリアさんと話し、VAIOの次シリーズのスペックを考える企画部との橋渡しをするのが僕の仕事です。
ここに実際にインターネットで通信ができるVAIOがあるので見てみてください。

--YouTubeがストリーミングでちゃんと見れていますね。これでどこでもインターネットができるのが当たり前になると面白そうです。中出さんのチームはどういう構成ですか?

キャリアさんと話をしている担当者は僕一人です。もちろん状況を上司に報告することはしていますし、僕一人だけで商品を作る訳ではないので、先ほど話した企画部と密接に連絡をやりとりしないといけない。だから企画部でモバイルモジュールに関するビジネス開発を担当しているという見方もできますね。

<ワイヤレスブロードバンドを用いた通信を見せていただいた。>
--現在の会社(SONY)を選んだきっかけは何でしたか

実は新聞の記事を見たというのが理由なんです。僕はもともと97年に修士号を取得した後、とある総合商社に入ったんです。その頃はちょうどインターネットが世の中で使われ始めていた時代でした。これからブロードバンドネットワークの時代が来ると感じ、情報系の部署に行こうと思ってその会社に入ったんですけど、入社してからは全く別の業務をしていたんです。トラックの仕事をしたりしていましたよ(笑)。
しばらくその会社で働いていたんですけど、1年ぐらい経ったときに新聞でSONYがインターネットに本格参入するという記事を新聞で読んだんです。当時メーカーとしてのSONYには興味がなかったんですが、ネット事業に本格参入すると言う記事を見て、もともと興味のあったネットワークのサービスに関わりたくなり転職を決めました。
だからこの会社に来たのは偶然なんです。でも転職して後悔はしていないので、良い選択だったと思います。


--会社の特徴を教えてください。

うちの会社は若い人でも大きな仕事を任せてしまう特徴があります。そこまで任せていいのかな、というところまで任せてしまいます。それと表裏一体なんですが、自分で考えて仕事を進めることができます。もちろん会社の中でも部署によって違いますが、僕のいるところのように新しいビジネスを作るところでは主体性を持って仕事を進められます。
でも、この特徴は常に良いというわけじゃなくて、あくまで「特徴」として理解してください。向き不向きがあって、与えられた範囲でまじめにコツコツ100点満点を狙う人には向いていないかもしれないですね。
上司から作業を頼まれたときに、その作業を鵜呑みにせずに、より良い方法を考えるような主体性のある人が向いていると思います。もちろんそれによって成果を出さないといけませんが。
こういう仕事には素質が多少は関係あるかもしれませんが、会社に大きな責任を任されて、社外社内を問わずさまざまな所に行ってどうすればいいかを探っていく、そういう試行錯誤を重ねることで成長していくんだと思います。

--中出さんのこれからの夢/ライフプランはなんですか。

よく就職活動で聞かれる質問ですね。実は僕は具体的な夢は持ってないです。
ところで僕自身の職業観が大きく3つあります。人それぞれいろんな職業観を持っていると思うんですが、1つ目は社会に役に立つものを生み出すものであるということです。僕が今取り組んでいるワイヤレスブロードバンドというのはこれからの将来大きな産業になって、社会にいろんな貢献をしてくれるんじゃないかなと思っています。
2つ目はその中で自分が担当する仕事が自分にとって面白いかどうかだと思います。世の中に価値があるといっても自分の仕事が面白くないといけないと思うんです。
3つ目は報酬。家族を養わないといけないし、それなりに快適な生活を続けたいと思うので無視はできません。
以上の3つが僕の職業観です。10年後,20年後に僕が具体的に何をやっているかはわからないけれど、きっとこれからもこの観点で仕事を選んでいくと思います。

あと、これは笑い話と思ってくれていいんですけど、生涯をかけて人類の歴史に名を残すようなことができるなら残りの生涯をかけてもいいと考えています。
今、僕が取り組んでいるVAIOでのワイヤレスブロードバンド通信もテーマとして面白いものだと思うんだけど、残念ながらこのVAIOは人類史上価値があるものかというと、そこまでは言えないでしょう。ここ1年のノートPCとしてはとても優れているパソコンだと思っているんだけどね。
人類の歴史に残るものは例えばどんなものかというと、例えばフィレンツェのドゥオモという教会があって、これが非常に美しい。この建築物は人類の歴史的に見て価値があると思うんです。他にはバイオリンのストラディバリウス、すごく値段の張るやつですね。作り手が亡くなり、今ではわずか約600台のみ現存している幻の名器です。
この会社で出会うか他のどこかで出会うかはわかりませんが、これらのように広くあまねく価値があることに自分が貢献できると確信したら、残りの生涯をかけて取り組みたいですね。
情報科学科について
--情報科学科での思い出といったら何でしょう。

プロセッサ実験ってありますよね。あれが一番の思い出ですね。それにしてもめちゃくちゃだよね、あれ(笑)。インストラクションセットって何ですか?、というところから勉強して、その年度のうちに実装までするという過密スケジュールなんだから。僕の場合は5人のチームでプロセッサの設計を二人で分けて分担したので、バグが出たときにどっちのほうに原因があるのかわからなかったり、ハードウェアのデジタルでない部分、例えばクロックの調節などでずいぶん苦労したりしました。
大変だったけど、あれは本当に勉強になって、コンピュータってこういう風に動くんだなとわかりましたね。
2つ目は、このVirtual Universityのプロジェクトをまかされたことかな。実は一番初めのVirtual Universityを作ったのは僕らなんです。最初に稲葉さん(当時の学科の広報担当者)から「君こういうの得意だよね?」と話をもらったんです。予算はあげるから、こういうプロジェクトが好きそうな人を何人か集めて、期限は5月まで、目的は学部生が興味を持つようなページを作る、など5,6個ぐらいの条件をもらったんです。その条件のもとで、具体的にどういう項目でウェブサイトを作るかとかは自分たちで決められた。
これをM1の就職活動の時に言われてね(笑)。数ヶ月の短いプロジェクトだったけど、非常に面白かったですよ。
あとは、修士のときにやらせてもらった研究ですね。成果はさておき、"研究"というものをやらせてもらったのは良い経験でした。


--研究室はどこに所属していましたか。

学部のときは米澤研で、修士では今井研でした。僕が勉強した内容で興味をもったのが人工知能とアルゴリズムだったんです。
人工知能に関して、電卓とコンピュータは何が違うのかという話があります。正しいかどうかは別として僕の理解では電卓は数式を計算するもので、コンピュータは言語を計算するものです。「言語とか文章を計算する」という不思議な言い方が僕にはとても面白いなと思ったんです。「計算って何だ?」、というので非常に興味を持った。というわけで学部時代は米澤研を選びました。

でも、その一方でアルゴリズムにも興味があったんです。クイックソートやダイクストラ法を学んで凄いなと思ったんですね。これを考えたやつは天才だなと衝撃を受けたんです。こういうアルゴリズムをより一般的な計算の枠組みでとらえることができるということに興味を持って大学院では今井研を選びました。

今でも、IT業界で新しいアルゴリズムを見つけて、それをビジネスに結びつけているところは少ないです。能力的にも難しいと思いますし、そういう場がなかなか与えられない。そういう意味ではSkypeは凄いですよね。これまでのサーバ集中管理をするモデルではなく、ノードがサーバの代わりをすることによりアルゴリズムレベルで優位性がある。Skypeのビジネスを見たときに、アルゴリズム的にすごいなと思いました。
僕はエンジニアではないですが、こういうアルゴリズム的なイノベーションを念頭に置いてこれからもビジネスを進めたいです。
メッセージ
--最後に、今の学生にメッセージ/アドバイスをおねがいします。

いろいろありますが、今日は3つだけ話したいと思います。1つ目は、これは僕の考えなんですが、人間の可能性は何歳になっても無限だということです。僕は情報系を卒業したのだけれど、トラックの商売をしたこともあるし、前はSo-netに出向していたこともあるので、そういう意味では僕は3つの会社にいたことになります。可能性は無限なので自分の可能性を塞がないでほしい。
例えばビジネスプランニングなんて出来るのかわからなくても、面白そうだと思ったら果敢にトライしてみるべき。
ただし、可能性は誰だって無限に持っているけれど、時間は有限でチャンスも有限回しか回ってこないということも付け加えておきたい。なので、やっぱり何かやりたいと思うなら、チャンスに対して常にアンテナを張っておいた方がいい。チャンスが目の前に来てもほとんどの人はそれに気づかないし、気づいた人でも用意していないと、躊躇してしまってそのチャンスをふいにしてしまう人もいる。
チャンスが来たときにがしっと掴める人はチャンスがくる前から常にアンテナを張り、周囲に注意を払っている人だと思います。何かすごいことをやりたい人は、それに対するアンテナを張っておいたほうがいい。

2点目は若いうちにいろいろな仕事をしたほうがいいということ。例えば20代のうちに違う仕事を3つぐらい経験したほうがいい。大学を出てから20代のうちに社会で仕事を6年〜8年間経験すると思うんです。その中で同じ会社の違う部署でもいいから、同じ仕事を8年やるんじゃなくて、2,3年おきぐらいで3つぐらい異なる仕事を、できれば違う職場で経験したほうがいい。
結局ね、同じ仕事を長く続けてるとその仕事が"仕事"だなというのを覚えちゃうんですね。ところが、仕事が変わるとそれは思い込みでしかなかったと気づくんですね。
全然違う利益で仕事をする職場があり、全然違う価値観で判断される職場があったりと、実は仕事って千差万別なんですね。別に転職しなくてもいいので、同じ会社内で異動するでもいい。自分の価値観が固定されないうちに、いくつかの職場を経験すると良いですね。これが2つ目。
3つ目は"才能"という言葉に関するものです。突然ですが、"才能"ってなんだと思いますか?


--うーん、努力した結果が才能という風に見える、というものだと思います。

それは僕の考えと近いですね。これは将棋の羽生さんの言葉なんですが、彼は昔、才能というものは一瞬の閃きがものを言うと考えていたそうです。でも、30歳を過ぎてみると、才能というのは20年30年という年月で変わらずに一つのことに取り組める情熱のことなんだなと気づいたそうです。
また、イタリアの職人の話を集めた本を読んだことがあるんです。その中にフィレンツェの金属加工職人がインタビューに答えていたものがあって、その人も才能というのは継続的な情熱のことだと言っていたんです。羽生さんと全く同じことを言っていたんですね。それを見てこの"才能"の話は面白いなと思ったんです。
やっぱり、いい仕事をするには"才能"が必要です。その「才能というのは何だ?」、という問いへの一つの解釈として、自分の人生で継続的に情熱をもって取り組めること、というのが才能だという話があります。
だから何かに情熱的に取り組め、というものではないのですが、若い人の中にはこの話を聞くと勇気が出る人もいるかもしれないので、学生のみなさんにお伝えしようと思いました。


--これでインタビューは終わりです。楽しい話をありがとうございました。

インタビューを終えて
日本を代表する電機メーカーの方の話を聞きたいと思い、SONYの中出さんに話を伺ってきました。現在はVAIO事業本部に努めていらっしゃる中出さんですが、現在の職に就くまでにはいくつかの職場を経験したそうです。そこでの仕事の話はもちろん、中出さんの職業感や、壮大な夢の話などバラエティーに富む話を聞くことができ非常に楽しい時間を過ごせました。
インタビューを終えて、10年、20年後に自分も中出さんのような新たにビジネスを作り出すような仕事に就き、世の中に面白いものを発信していきたいと思うようになりました。貴重な体験をありがとうございました。(鈴木・加藤)