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アイデアを生みだす秘訣

つねづね、お聞きしたいと思っていたことがあるんです。毎年このようなヒット研究を生みだし続けていらっしゃることに驚いているのですが、その秘密はなんですか? アイデアはどうやってでてくるのでしょう。

いや、特に秘密はないんです。というより、それを簡単に説明できたら苦労はないですよ……(笑)。もちろん、何か新しいことはないかって、いつも考えているんです。たくさんアイデアをだして検討します。人間がものを見て何を考えるか、僕はそこに興味があるんですが、それは僕がこれまでやってきた研究の根底にあると思いますね。

ひとつ挙げるとすれば、いろいろな人と話をすることかな。たとえば、学会に行けばいろいろな話が聞けます。学生や異なるバックボーンの研究者と話をするなかでも得られます。

技術の変化についてはどうでしょう。そのとき出揃った技術要素を、アプリケーションにどうつなげられるか。そういうことはあるでしょうか?

それはあると思います。みんな考えるんじゃないかな。たとえば、以前のCGは、立体をベジエ曲線やスプライン曲線のように数式で表そうとしていました。コンピュータが遅かったので、数式でなんとか処理の負担を小さくしようとしたんですね。いまは、レーザースキャナで立体をガーッと走査して、すごく大量の座標点の集まりを取り出し、そのまま連立方程式を立てて処理するような研究が盛んです。高速になったコンピュータで、力わざが可能になったわけです。

その方法で、2次元の絵も点の列を直接表現するような手法にしたら面白いんじゃないか。そう思って始めたのが、マルチタッチでアニメーションを動かす研究です。ちょうどそのとき、マルチタッチで何かやりたいと考えていた学生がいたんですね。だからこれは、技術ありき、人ありきなんです。

マルチタッチでアニメーションをつくる

2次元のスケッチを、タッチパッドの両手の操作でぐにゃぐにゃと変形していく。ここで編みだした手法Rigidでは、CGでよく用いられている仮想的な骨組みを使用しない。図形(クジラ)をより自然かつ高速に表示させるため、図形の内側に設けた三角メッシュの要素を拡大・縮小させながら、変形させている。

《体験型アートへ応用する》
前述のアルゴリズムRigidを、体験型アートに応用。壁に映った自分の影が、音楽に合わせて勝手に踊りだす。(2009年、「骨」展)

他人と同じことをしていても仕方がない

スケッチからつくった形、骨のない形には、現実の形や厳密に描いた形とは別のいい加減さ、ゆるさがあって、それが意外性や面白さになっています。たとえば手描きの丸が、それらしくはあるけれど、ちょっとゆがんだ立体になるといったように。そこはやはり、あえてリアリティからの逸脱、他とは違う独自性を意識していらっしゃるのでしょうか。

それは、意識しています。研究なんですから、他人と同じことをしていては仕方がありません。リアリスティックな方向性の研究はいろいろあるので、逆にくだけた形を打ち出してきたところはあります。わざと線を太くしたり、ぐにゃぐにゃさせたり。

そういう独自のユーザーインターフェイスを研究していくために求められる素養とは、どういうものでしょう。天性のひらめきがいると言われたらどうしようかと思いながら訊ねているのですが。

あとから身につくものなのか、生まれつきのものなのか、それはわかりません。もちろん、英語や数学は勉強したほうがいいし、プログラムもできたほうがいい。でも、技量だけあってもしょうがないんですね。やっぱり、自分が面白いと思うものがあること、これがやりたいという気持ち。それが断然重要で、必要な素養はあとからでもついてきます。

クマから始まった研究の紆余曲折

できないこと、間違っていることでも、やりたいことがはっきりしているほうがいいんですね。五十嵐先生のやりたいことは、やはり「クマ」だったのでしょうか?

ええ。とはいえ、クマが研究テーマになるまでに、若干の紆余曲折がありました。学部生のころに研究室に配属されたとき、もともと絵を描くのが好きだったので、卒論はクマで何かやりたい。そこで、クマを描いたらクマと認識してくれるプログラムはどうかと、先生に相談したんです。

それはスゴイですね。落書きのクマをコンピュータがクマと認識するということは、人工知能?

そう。ちゃんとスゴイものをつくるのはとても難しい。といって、トリビアルなものでは仕方がない。卒論生の研究設定としてはよくないわけです。最初のころは、まだそういうことがわからないんですね。
 そこで、なぜそのテーマをやりたいと思ったのか、考えるんです。人はどうやってクマと認識するのか。それを指導教官と相談しながら、卒論ではそのベースとなる技術、こことここは塊と認識する、こことここはつながっている、そんなふうに平面の形状のグループ構造を抽出するプログラムをつくりました。アイコンや写真を机の上に並べて、そのグループ構造を自動的に認識できたらうれしいでしょ。
 そんなわけで、卒論はクマじゃなくなったんですが、その後お絵かきツールをつくり、さらに落書きから立体モデルの生成へと研究が発展していき、クマは僕の研究のトレードマークになりました。

そうやってつくりだしたものは、こんどはどうやって見せるかがたいせつになってくると思うのですが、最後に、プレゼンの極意、いつも気にかけていることをひとつ、アドバイスしていただけますか?

学生には、練習をいっぱいしなさいと言っています。10回でも100回でも。それから、つくったものをビデオで見せるのではなくて、実際にそこで動かしてみろとも言っています。ライブ感がありますから。かくいう僕も、SIGGRAPHでの発表のときにすっかり舞い上がってしまって、わざわざ子どもが楽しそうにプログラムを使っている様子をビデオに撮ってあったのに、見せ忘れてしまったことがあります。忘れえぬ失敗です。

五十嵐先生がつくったものには、ユーモラスで親しみのある雰囲気があります。でもそれは、それまで考え続けてきたたくさんのアイデア、数式、実装の工夫に裏打ちされているのではないでしょうか。そして、いつも飄々としているプレゼンにも、入念な準備がある。水面下の足かきを見せない白鳥の矜持、世阿弥の説く「秘すれば花」の奥義を感じるのですが。

どうなんでしょうね、ふふふ。

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