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自然現象を計算する

CGは、「見える仕組み」や「物理現象」の追求によってリアルになっていったのですね。

そうです。光がどう当たるか、光の種類、モノの材質、モノがどうやって見えるのかという原理から考えて、画像を計算します。物理現象に忠実であろうとすれば計算は複雑になるけれど、計算できないといわれていること、誰もやっていないことでも、発想の転換やアルゴリズムの工夫で解けるものはあります。

〈波間から水中に注ぐ光の効果/1994年〉 〈雲の映像/2010年〉雲の粒子の間でやりとりされる光の散乱現象を再現している。

物理現象といえば、西田先生のスライドにはフォトリアリスティックな自然現象の映像がよく登場します。

僕たちは、水中の効果、砂、地形、雲、雷などの自然現象を、いち早く計算によって映像化してきたんです。いくつかお見せしましょう。

右の映像は、波間から水中に注ぐ光の効果を計算しています。1つめの映像はよくイルカに間違えられますが、実はシャチ(オルカ)なんです。まだコンピュータの性能が低いころに作成したものですが、その後シャチは研究室のトレードマークになりました。

もくもくした雲は、僕らがたびたび取り上げているテーマです。右の映像では、雲の色を計算するために、雲の粒子の間でやりとりされる光の散乱現象までシミュレーションしています。すると計算量がたいへんになるんですが、GPGPUというグラフィック処理に強いハードウェアを駆使して、より精密な映像を高速に描画できるようになりました。最近は、雲の動きなどの計算に流体力学も使ったりするんですよ。

〈地球が青いことの証明/1993年〉空気の色を計算。毛利衛さんのお墨付き。

空気の分子に光が当たると、青い波長がいちばんよく反射するでしょ? それを考慮して宇宙から見た地球も計算しました。地球が青いことの証明。でも、その論文を学会に投稿したら、本物と比較しろと。そんなこといわれたって、宇宙には行けません。そこで、実際にスペースシャトルに搭乗して宇宙を旅した毛利衛さんに見てもらいました。学会には、毛利さんが撮った写真と比べて、どうだ本物らしいだろうと(笑)。

画家が描くような油絵タッチ、墨絵タッチの画像も、一見フォトリアリスティックとはまったく異なる方向のようでいて、実はペンや画材の物理現象をシミュレーションした結果なのですね。

そうです。ハプティックといって、人がかけた力をフィードバックしてくれるペンがあるのですが、下の画像にはそれを使ってキャンバスにナイフを押し付けたり削ったりした動作を反映させています。北斎が油絵を描いたらこんなかなあって。これでも、浅草を歩きまわって浮世絵を買い集めたりと、努力をしているんです(笑)。

筆の墨が紙の繊維に染みこんでいく現象をシミュレーションすれば、筆で書いたにじみやかすれだって計算できます。

こうしてみるとずいぶん多彩ですが、アイデアはどうやって思いつくんですか?

全部自分でやらないと気がすまなかったころもありましたが、「オレが若いときはこうだった」と押し付けてもあんまり成功しません。研究室では、僕はなにも言わないで学生が思うままの研究テーマでやっています。僕があとから追いかけて、いっしょに勉強しながら手伝う感じです。

この種の研究は、経験に基づかない分野だと思っています。そりゃ、プログラミングテクニックや誰がそのテーマで論文書いているかという知識はいります。ほかの論文に負けたらいけないからね。でも、なにを研究したらいいかは知識をもっているからいいわけではありません。意外と論文をたくさん知っている人にかぎって、発想力がなくなるように思います。


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