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ムーアの法則は消滅するのか?

次の計算機を考えるとき、先生はどんなふうに目標を設定するのでしょうか?

私たちは次の計算機を考えるとき、今より千倍速くしたいと思う。まあ、千倍というのはキリがいいですからね。ペタフロップスが実現できたらエクサフロップス、エクサフロップスができたらゼッタフロップスという具合に。でも千倍も速くするには、今の普通の技術から跳躍がなくてはできません。

ひと周り前の時代のことを考えてみましょうか。現在は1システムの最高速が100ペタフロップスくらいですから、その千分の一だと100テラフロップスくらい、地球シミュレータが100テラフロップスを超えたころですね。そのころも、今と同じように半導体技術には限界がきているから、ペタフロップスマシンは作れないとみんな言い始めたんです。それで、超電導量子デバイスもそのひとつですけど、いろいろな方法を探り始めました。

でも結局は、同じシリコンデバイスで千倍の性能を実現できたんです。これは、それまでのチップの機能をいくつも詰め込めるようになるくらいの微細化、つまりシングルコアのプロセッサからマルチコア、メニーコアのプロセッサへの進歩があり、それに加えていろいろな工夫があって実現したわけですが。

今、半導体技術の進化に頭打ち感があって「ムーアの法則」は終わった、とさかんに言われています。プロセッサの画期的な高速化は望めないというわけですが……。

あれ、ウソですから(笑)。

プロセッサを高速化する方法は2つしかありません。動作クロックを速くするか、素子をたくさん使って賢いロジック回路で高速化するか。頭の回転を速くするか、脳細胞を増やすかというわけですね。これまでの半導体の微細化は、まさにこの2つの点に寄与していました。頭の回転のほうは、今はギガヘルツクラスで、そこから一挙にテラヘルツへというのはちょっと考えにくい。でも、素子のほうは増やせます。

私は、コンピュータは結局、自然界の知能――脳の構造のようなものを目指さざるをえないと感じています。脳内でネットワークを形成している神経細胞は、中心から外側に向かって立体的に集積していますが、接続距離の点を考えるとすごく合理的にできています。すると、次にコンピュータが向かう姿というのは、明らかに積層です。思い違いをしている人もいますが、ムーアの法則というのは単位面積あたりの素子の数が指数関数的に増えればいい。別に1層である必要はありません。

現在の半導体は、ペランペランの薄いシリコン(ウェハー)にロジック回路を印刷して製造しています。そのウェハーを貼っては磨き、貼っては磨きという手法でチップに積み上げて、数カ所を棒状の電極で垂直に貫くという技術もあります。シリコン貫通電極(through-silicon via:TSV)というのですが、これでシリコン1層の厚さは0.5mmくらい。

でも実は、ICの回路って、本当に素子がある部分は表面のわずか1ミクロン程度です。ここにあるシリコン・ダイも、厚さの99%は無駄に使われているわけ。だから私は、あと千倍速くする次の基本技術は、本当の3D化技術――3DプリンターのようにICを積層形成する技術だとにらんでいます。現在のところは、そういう技術の萌芽といえる研究はあるけれど、まだほとんど実在しません。でもきっと出てきます。

それが実現できて回路が100層になったら、性能は100倍まで行けます。あとは、マイクロアーキテクチャを工夫して10倍すればいい。ほら! 千倍の性能が見えてきた。
もちろん、冷却は考えなくてはいけません。クロックを落とすとか。でも、できると思っています。なにしろ、私は世界一楽観的なアーキテクトと言われてきましたから。

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